理論化学
化学講座 第49回:コロイド溶液
液体を加熱していくと、液体内部に小さな気泡が生じ始めます。この気泡は、液体が蒸発してできた蒸気の塊で、内部はその温度の飽和蒸気圧になっています。
溶液とは、液体に気体や固体が均一に分散し、時間がどれだけ経過しても濃度が偏らなくなったものの事です。
例えば、食塩水を考えてみましょう。これは水に NaCl が電離して生じた Na+ と Cl- が均一に分散しているものですね。そして、時間がどれだけ経過しても Na+ や Cl- が水中のどこかに偏ったり沈殿したりすることはありません。コーヒーや墨汁もそうですね。一方、泥水はどうでしょうか。ペットボトルに泥と水を入れて激しく振り混ぜると一度は均一な液体になりますが、時間がたつと泥が沈殿します。ですので、泥水は溶液ではありません。
このような溶液と、溶液でない混合物の違いは溶質の大きさによってうまれます。
具体的には溶質の直径が 10-5 cmより小さなものは液体中に均質に分散して溶液となります。
また、溶液にはコロイド溶液と真の溶液の二種類があります。真の溶液というのは NaCl 水溶液のような透明の溶液で、コロイド溶液はコーヒーや牛乳のように不透明の溶液です。これらは溶質の大きさで分けることができて、コロイド溶液は直径が 10-5~10-7 cm程度です。この数字は大学受験で出題されますので、覚えておきましょう。
また、コロイド溶液では、溶媒の事を分散媒、溶質の事を分散質、溶液の事を分散系と言います。ですので、正確にはコロイド溶液ではなく、コロイド分散系というのが正しい表現です。
沈殿 | コロイド溶液 | 真の溶液 | |
---|---|---|---|
粒子の直径 | -10-3cm | 10-5-10-7cm※ | 10-7-10-8cm |
※コロイド粒子の大きさは覚えておくこと
溶液 | 溶媒 | 溶質 | 溶液 |
---|---|---|---|
コロイド溶液 | 分散媒 | 分散質 | 分散系 |
気体コロイド固体コロイドなど
分散媒が気体の分散系を気体コロイド、分散媒が固体の分散系を固体コロイドといいます。また、分散質の種類によっても名称が変わります。
分散媒 | 分散質 | 名称 | 例 | |
---|---|---|---|---|
気体コロイド | 気体 | 液体 | エアロゾル (リキッドエアロゾル) |
スプレー、霧など |
気体 | 固体 | エアロゾル (ソリッドエアロゾル) |
煙、ほこりなど | |
固体コロイド | 固体 | 気体 | ソリッドフォーム | 整髪料(ムース) 発泡スチロールなど |
固体 | 液体 | ソリッドゾル※ | ヨーグルト など | |
固体 | 固体 | ソリッドゾル※ | オパール など | |
コロイド溶液 | 液体 | 気体 | フォーム(泡) | ホイップクリーム など |
液体 | 液体 | エマルション (乳濁液) |
マヨネーズ など | |
液体 | 固体 | サスペンション (懸濁液) |
泥水、血漿、絵具 など |
※ソリッドゾルはゲルに含まれる場合もある
コロイドには幾つかの分類方法がありますが、コロイド粒子の種類による分類として、分子コロイドと会合コロイド(ミセルコロイド)の二種類があります。分子コロイドというのは、たんぱく質のような巨大な分子がコロイド粒子として存在するもので、タンパク質のアルブミンやグロブリンなどを含む牛乳や血しょうなどがこれに当たります。
会合コロイド(ミセルコロイド)というのは、真の溶液を作るような小さな分子やイオンが 50~100 個程度集まってできるもので、せっけんや FeCl3 などがこれにあたります。
コロイド分散系にはいくつかの特有の現象があることが知られています。これらの現象と特徴については頻出ですから覚えておきましょう。
1)チンダル現象
コロイド分散系に光を当てると、光の道筋が明るく光って見えます。これは、コロイド粒子が光の波長に対して十分大きいため、光の一部を反射するために起こります。真の溶液では、粒子が十分大きくないため、チンダル現象は起こりません。
2)ブラウン運動
コロイド分散系を限外顕微鏡(コロイドを観察することができる特殊な顕微鏡)を用いて観察すると、コロイド粒子がランダムな運動をしているのがわかる。この運動は温度が高くなるほど激しくなるが、この運動をブラウン運動という。ブラウン運動は分散媒がコロイド粒子に衝突するために起こる現象です。温度が高くなると分散媒の熱運動が激しくなるため、衝突されるコロイド粒子も激しく運動するのです。
3)透析
イオンなど、半透膜を通過することができる不純物を含むコロイド溶液は、半透膜でできた袋に入れて水中に入れておくことによって精製することができる。これは、不純物は核酸によって半透膜の外へ広がっていくのに対してコロイド粒子は半透膜を通過することができないためです。
4)電気泳動
コロイド粒子は正または負のどちらかに帯電しているため、コロイド溶液に電極を入れて電圧を掛けると、陽極あるいは陰極のどちらかにコロイド粒子が偏ります。このように、電圧を掛けて電荷をもつ粒子を分離することを電気泳動といいます。電気泳動をすることにより、コロイド粒子の電荷が正であるか負であるかを調べることもできます。
5)塩析・凝析
コロイド分散系に電解質を加えると、コロイド粒子が凝集して沈殿が生じる。
コロイドには、電荷が大きく、水となじみやすい親水コロイドと、電荷が小さく、水となじみにくい疎水コロイドがある。親水コロイドは、電解質を少量加えても沈殿させることはできず、多量に加えて初めて沈殿が生じる。一方、疎水コロイドは、電解質を少量加えただけで沈殿が生じる。
親水コロイドに多量の電解質を加えて沈殿を生じさせる操作あるいは現象を塩析、疎水コロイドに少量の電解質を加えて沈殿を生じさせる操作あるいは現象を凝析という。
例えば、浄水場では下水に硫酸アルミニウムを加えることにより泥を沈殿させて取り除きます。
6)保護コロイド
疎水コロイドの溶液に親水コロイドを加えると、疎水コロイドの表面に親水コロイドが付着して、親水コロイド同様に沈殿しにくくなる。このような用途で用いられる親水コロイドを保護コロイドという。例として墨汁に加えるにかわ等があります。