医学部志望理由書の書き方
(1) はじめに
出願ぎりぎりになって慌てて、どうしよう、と言いながら駆け込んでくる人がいます。
医学部の出願書類の中に、志望理由書が必要な大学があります。そのような大学で出願書類は大事な判断材料になります。
特に推薦入学試験やAO入学試験では志望理由書の内容は合否判定で重視されるうえ、かなりの長文を要求されますから、下書きを書いてから少なくとも二回程度は誰かの校正を受ける必要があります。
時々、何の校正も必要ない文章を書く人がいますが、これはレアケースで、たいていの場合は第三者の校正を必要とします。
原因と結果がつながっていなかったり、医師志望理由と大学志望理由がかみ合っていなかったり、例として出したエピソードからどうやっても主張したい結論を導けなかったりするのです。
一般入学試験でも書く必要のある大学がありますので、願書が配布されたらできるだけ早い時期に入手し、出願の準備を整えるべきです。
最も、私立大学医学部の場合、出願書類に必要とされる志望理由は200字程度のものが多く、以下に述べるような本格的な文章が必要とされるわけではありません。
しかし、短い志望理由書を書く場合においても、本格的な志望理由書の書き方を知っていることは大切です。なぜなら、本格的な志望理由書をダウンサイズして書く、あるいはその一部を書くことにより、まとまりのある、すっきりとした志望理由書になるからです。
(2) 志望理由書とは何か
医学部入学試験における志望理由書というのは、医師になる熱意と決意、そして現時点における将来の夢やビジョン、そして、それを達成するためにその大学で学ぶ必要があるという事を相手に伝えるためのものです。
医師になりたいという熱意が弱ければ、大学はその人が本当に医師になりたいのかどうかわかりません。他の受験生が熱意に満ちた志望理由書を書いていたとしたら、大きく減点されることになるでしょう。
大学は、学生が途中で挫折してしまう事を最も嫌います。時間を掛けて育てた学生が中途退学したり、医師免許を取得できない状況が最も嫌なのです。
将来の夢やビジョンについては、将来的に変更される可能性があるとしても、しっかり書くべきです。本当に医学に興味があるなら、医学についていろいろと調べるのが普通ですし、調べればそれなりに夢やビジョンを持つのが自然だからです。この部分が無ければ、医学に本当に興味があるのだろうかと疑われてしまいます。
最後に、それを達成するためにその大学に入る必要があるということを書きます。この部分がその大学を選んだ理由、「大学志望理由」です。この部分が書かれていなかったり、内容が貧弱であれば、試験官はうちの大学ではなくてもいいのではないかと思ってしまうでしょう。
試験官はこれらの情報を元に、その受験生が自分の大学にふさわしい人物かどうかを判断します。また、志望理由書を読んでもわからない内容や、さらに詳しく聞いてみたい内容に関して面接で質問するのです。
注意してほしいのは、自分自身の夢の方向性と、大学の目指している方向性が異なっていてはいけないという事です。ですので、自分自身の夢を明確にすると同時に、大学の目指しているものを調べて、それがしっかりかみ合っているかどうかを確認することが大切です。
以上から、志望理由書の基本的なアウトラインは下図のようなものです。
※繰り返しになりますが、大学志望理由と自分の将来像がずれていてはいけません。また、大学の求めている人物像とずれていてもよくありません。全体の流れが1つの線になっており、過去・現在と未来をつなぐ線の上に受験校があることが大切です。
(3) 志望理由書を書く前に準備する事
(2)で述べたように、志望理由書には、「医師志望理由と熱意」、「将来の自分像」、「大学志望理由」、の3点を書きます。文章の途中に自分自身の経験から得られたエピソードなどを挿入することもありますが、それらは全て、この3点を相手に分かりやすく伝えるために書きます。
ですので、この3点について明確化することが志望理由書を書く第一歩です。
(3)-i)「医師志望理由と熱意」
医師志望理由は、どうして医師になりたいのかということについて書きます。ここで、子供のころに病気になり、苦しかったので、病気になっている患者に寄り添える医師になりたいです。というようなことを書く人がいますが、残念ながらあまりよくありません。
なぜなら、それならば看護師でも理学療法士でもよいからです。きっかけは自分が病気になったことだったとしても、その後、将来について考え、調べた結果、やはり医師になりたいと思った、という部分が必要です。
なぜあなたは医師を目指したのか、そして、それは医師でなくてはいけないのか、この問いに明確に答えられるようになるまで考え、そして調べましょう。
(3)-ii)「将来の自分像」
医師になりたいと考えた時、医師とはどのような仕事なのかを調べたいと思うのが自然でしょう。
病気を治すのが仕事だということが分かっていたとしても、病院以外で働いている人はいるのか、内科や外科や小児科などいろいろな診療科があるが、どのようにして決めているのか、医師免許を取得したらすぐに開業してもいいのか、など、少し考えただけでもいろいろな疑問がわいてくるはずです。
このような疑問点を調べ、自分が目指す職業についてより深く知ろうとするのが熱意の表れだということについて、疑念の余地はないはずです。当然、大学の試験官もそのように考えているでしょう。
そして、医師という職業について調べ、その知識が深まるにつれて今度は、将来どのような医師になりたいかという目標やイメージができてくるはずです。
それが将来の自分像であり、この像が明確になっているほど強い熱意を持っている。と判断されるのです。
(3)-iii)「大学志望理由」
医師になりたいという強い熱意があり、どのような医師になりたいかという将来像が明確になったとしても、そのベクトルと大学の教育目標がかみ合っていなければ意味がありません。
大学志望理由とは、自分自身の将来の目標を達成するためにその大学で教育を受けたいと考えている事、そしてそのように考える理由を述べる部分なのです。
したがって、大学志望理由を書くためには、大学が目指す教育がどのようなものであるのかという事を調べておく必要があります。
無論、事細かに調べ、完全に一致しているかどうかを吟味するなど不可能ですし、あまり意味がありません。
ですが、最低でも学是や教育理念、大学病院の運営方針などをよく読み、どのような医師を育成しているのか、あるいはしようとしているのか程度は把握しておきましょう。
また、全国各地で開催されている説明会などに参加し、大学担当者からその大学の情報を入手しておくのもよいでしょう。当然、その前に大学について調べておくとより効果的に情報が得られるのは言うまでもありません。
(4) 志望理由書の文章構成(800字程度の場合)
本格的な志望理由書の例として、800字程度の志望理由書を書くことを考えてみましょう。
この場合、下図のような順で書いていきます。
1)医師志望理由(200字)
- きっかけ(医師を志望するようになったきっかけのエピソードなど)
- どのような思いで医師を志望しているのか。(現在の思い・熱意)
2)自分の将来像(200字)
- どのような医師を目指しているのか。(将来の自分像)
- どうしてそのように思ったのか。(そのように思ったきっかけ)
3)大学志望理由(200字)
- 受験校のどこに魅力を感じたのか。
- 受験校での教育と自分の将来像の関係。
4)大学に入ってからの展望(150字程度)
- 大学に入ったらどのような活動をしたいか。
(勉強・部活動などをどのような方向性でやっていきたいか。)
5)まとめの1言(50字くらい)
- 以上より、私は貴校への入学を希望いたします。という一言。
もっと短い志望理由書であれば、この一部を利用、あるいは全体を要約して書けば大丈夫です。たとえば、本学志望の理由を書け(200字程度)。であれば、3)の大学志望理由を中心にとして、その前に1)2)の内容を簡潔に記します。
(5) 文章を書くときの注意点
(5)-1)段落に分けること、だらだらと書かない事。
文章を書くときは、段落に分けて書きます。また、1つの段落には1つの内容しか書かないようにすることが基本です。
ⅰ)段落わけをしていない文章
私は将来、内科医として働きたいと考えております。子供のころに病気になり入院したことがあったのですが、その時に治療してくださった内科医の先生に感謝と憧れの気持ちを抱いたのがそのように考え始めたきっかけです。高校2年生のころに医学部受験について調べ、オープンキャンパスや説明会に参加しました。その中で、多くのお話を聞かせていただきましたが、●●先生のお話を聞いて、やはり私は内科医として患者さんの人生に貢献したいと強く感じ、医学部を志望する決意をしました。ところで、最近は医療ミスなどがメディアで大々的に報道されるなど、医師に対する風当たりが強くなってきています。このような中で、内科医として活躍するためには、大学在学中からしっかりと勉強をして、揺るぎない基礎を作らなくてはならないと思います。
ii)段落わけをしている文章
私は将来、内科医として働きたいと考えています。
このように考えたきっかけは、子供のころに病気で入院したことがあり、私を治療してくださった内科医の先生に感謝と憧れの気持ちを持ったことです。
大学受験を控えた高校2年生の夏ごろに医学部について調べ、いくつかの大学のオープンキャンパスや説明会に参加しました。その中で、多くのお話を聞かせていただきましたが、とくに●●先生のお話を聞いて、内科医として患者さんの人生に貢献することを一生の仕事としたいという気持ちがより強くなりました。
以上が医学部を志望する理由です。
最近は医療ミスなどがメディアで大々的に報道されるなど、医師に対する風当たりが強くなってきています。このような中で内科医として活躍するために、大学在学中からしっかりと勉強をして、揺るぎのない基礎を作りたいと思います。
上の2つの文章を読み比べてみると、段落わけの大切さがわかりますね。ⅰ)の文章には複数の内容が入っています。また、ⅰ)の文章は非常に長いため、読みにくく、意味がよく伝わってきません。
このようなことを避けるため1つの段落には1つの内容を書き、その段落をつなげる事によって文章を構成します。また、読みやすさを考えて各段落の長さは4行までにすることが大切です。
(5)-2)伝えたいことのある段落には、伝えたいことを最初か最後に入れる。
各段落の最初か最後に、その段落で伝えたかったことを書きます。そうすることにより読み手に段落の内容がはっきりと伝わり、より読みやすい文章になります。
たとえば、次の2つを見比べてみてください。
ⅰ)伝えたいことが真ん中に来ている段落
大学受験を控えた高校2年生の夏ごろに医学部について調べ、いくつかの大学のオープンキャンパスや説明会に参加しました。その中で、○○大学の●●先生の内科のお話が印象的で、内科に進みたいという気持ちが強くなりました。また、他の説明会などの機会でも多くのお話を聞かせていただきました。
ⅱ)伝えたいことが最後に来ている段落
大学受験を控えた高校2年生の夏ごろに医学部について調べ、いくつかの大学のオープンキャンパスや説明会に参加しました。その中で、多くのお話を聞かせていただきましたが、とくに●●先生のお話を聞いて、内科医として患者さんの人生に貢献することを一生の仕事としたいという気持ちがより強くなりました。
ⅰ)の文章では、文末にある多くの話を聞いたということが強調されてしまい、内科医になりたいという気持ちが伝わってきません。
一方、ⅱ)の文章では、内科医になりたいという気持ちになったということが最後に来ており、これがこの段落で伝えたかったことなのだということが良く分かります。
(5)-3)各章の内容と、どこに何文字使うかを大まかに決めてから書く
書くときは各章の内容とどこに何文字使うかを大まかに決めてから書き始めなくてはいけません。いきなり頭から書き始めると、最後になって文字数が足りなかったり、多すぎたりしてまとまりのない文章になってしまうからです。
最初に、各章に書く内容を箇条書きで書き、それらのつながりを確認してから書きだすようにしましょう。
ある程度頭の中でできているからと言って、いきなり書き出す人がいますが、たいていの場合文章全体のバランスが悪く、最後になって文字が多すぎたり、少なすぎたりするものです。そして、文字数を加減している間に文章がだんだん複雑になってしまい、なんとなく読みにくい文章になってしまうことが多いのです。
(5)-4)自分の本音を書く
医学部は、熱意のある学生を求めています。ですから、医学に対しての自分の熱意、医師になりたいという強い気持ちを込めて書くようにしましょう。また、そこには自分の本音を書くことが大切です。
本音で書かれていない文章がどうして試験官の心に届くでしょうか。自分の将来について真剣に考え、自分がどうしていきたいのかを真剣に考えましょう。
将来的に生活が安定するから、という理由だから特に書くことがない。という人もいますが、そういう人こそオープンキャンパスや説明会に参加して、興味のあることがないか探す必要があるかもしれません。