関西医科大学 物理 過去問解析
分析表
分 野 | 2017 | 2016 | 2015 | 2014 | 2013 | |
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力学 | 運動の式・相対運動・慣性力 | ○ | ||||
力の性質・つりあい式・運動方程式 | ○ | ○ | ○ | |||
力のモーメントと重心 | ○ | ○ | ||||
仕事と力学的エネルギー | ○ | ○ | ||||
力積と運動量・衝突の問題 | ||||||
円運動・単振動 | ○ | ○ | ○ | |||
万有引力と天体の運動 | ||||||
波動 | 波の性質・波動を表す式 | ○ | ||||
定常波・気柱の共鳴・弦の固有振動 | ||||||
音波の性質・ドップラー効果 | ○ | |||||
光の性質・レンズ・凹面鏡・凸面鏡 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
光学干渉の問題 | ○ | ○ | ||||
熱 | 固体・液体の熱と温度の関係 | ○ | ○ | |||
気体分子運動論 | ○ | |||||
状態方程式・熱力学第一法則 | ○ | ○ | ○ | |||
電磁気 | クーロンの法則・電場・電位 | ○ | ○ | ○ | ||
コンデンサーを含む問題 | ○ | |||||
キルヒホッフの法則・電気回路 | ○ | ○ | ||||
電流と磁場の関係・電磁力 | ||||||
ローレンツ力・サイクロトロン | ○ | ○ | ||||
誘導起電力と電磁誘導法則 | ||||||
交流起電力と交流回路 | ○ | |||||
原子 | 放射線・水素原子モデル・核反応 | ○ | ○ | ○ | ||
光電効果・コンプトン効果 | ○ | |||||
物質波・ブラッグ反射・X線の発生 | ○ | ○ |
傾向
過去5年間をみると、2016年と2017年では出題数は4題であり、2015年、2014年は5題であるが、最後の2題はうちひとつを選んで解答するので実質4題である。2013年は4題であった。出題範囲は原子物理も含めて全分野にわたっているが、万有引力と天体の問題および、気柱の共鳴などの問題は出題されていない。
試験時間は理科2科目で120分。
難易度は、標準であったが、2016年度と2017年度について言えば、やや難が増えたと判定してもよいだろう。もとより時間内に解けきることを想定されていないようである。だからといって悪問なのではない。むしろ、条件反射で答えられるような問を廃し、問題をよく読ませて理解させて、その上で、高校生としての物理をどれだけ修得してきて問いかけに立ち向かうのかという気合いとも言うべきものを問うているように見える。
問題自体はどれもよく考えられており、むしろ90分くらいの時間を与えて、物理学科進学希望者の入試あるいは演習授業に用いたいくらいである。
このような傾向は、2015年あたりから続いており、とくに2017年で医学部らしい出題となって一応の完成形をみたのだろうか。そのようなことを念頭に置いて、2017年の出題について解説を試みよう。
Ⅰのばねによる単振動の問題は標準的ではあるが、運動量保存則を根底として、動かない重心のまわりのばねの角振動数を求めさせる問題で、いわゆる標準問題の暗期的解法では戸惑う問題である。それに引き続いた問では、分子の化学結合をばねによる結合と見なして、エネルギーの吸収や共鳴を問うもので、難易度は高い。
Ⅱではタッチパネルを題材にとり、交流に対する静電容量の影響を考えさせる問題であり、興味深い問題である。
Ⅲでは光ファイバーにおける光波の伝播の問題である。比較的容易である。
ⅣではPET(陽電子断層撮影法)を題材として、核崩壊の問題を聞いている。ここでは普段の勉強で抜け落ちがちな、放射能の強さの単位Bqも問われている。
以上の問題を見るに60分では高得点はなかなか得られないことがわかる。しかしながら、高校生物理の範囲内で合格点を得られるような出題になっている。
また、他年度についても、意欲的な問題が課されている。たとえば、2016年Ⅱの発光ダイオードの問題や、2015年ⅢのX線の集光の問題、あるいはⅣの光量子のエネルギーと視細胞の受ける仕事率の問題などである。
以上をみるに、本学の入試問題としての物理は、医療に用いる機器に題材を求めつつ、高校物理で学んだことを最大限発揮してようやく解答にたどり着くような問題を多数含む本質的に難しく、物理愛好者にとっては楽しい問題構成をめざしているように思う。
対策
①力学分野については、全分野について基本問題から標準問題まですべてを完璧に準備しておきたい。苦手な分野を残しておいてはいけないのである。また、力学の学習については他の分野の学習の基礎にもあたるので、不安な要素をなくすべきである。その上で、ハードな演習問題に取り組む期間を持つべきだろう。その際に役立つのは、早稲田大学理工学部の2014年~2016年の過去問演習は役に立つ。これは決して満点を得るための問題ではなくて、高校生レベルを超えたような出題に対する免疫をあらかじめ持たせるという意味でも重要であると同時に、無理難題にどのように立ち向かうかの解決の糸口を見つけるための訓練になる。
②波動分野は、比較的標準的ではあるが、きちんとした物理に対する概念の構築を怠ってきた者については苦しい問があるだろう。もとより、高校生レベルでは物理概念の構築を多く求められるわけではないが、入試とは、過去に練習してきた問題の解法をできるだけ速くはき出すくらいに思っている受験生にとっては厳しい結果が待っていることになる。したがって、すでに示した上記の早稲田理工学部の過去問などは有効である。
③熱分野については、本質的な問が多いようである。まるで理工学部1年次の熱力学概論の問題である。その意味で、実はセンター試験の過去問は一通りやっておくと良いだろう。定性的な問に正確に答えることがいかに難しいかがわかる。
④電磁気分野では、よく出会う問題はないと思った方がよいかもしれない。ダイオードや電流計などの問題がそうであって、対策としては、東北大学などの過去問は有効だろう。
⑤原子分野は、まず教科書をくまなく読んで、自分でまとめのノートを作ることをおすすめする。そのことで、基礎的な用語も含めて原子物理の内容が頭に入るだろう。その上で、国立大学の過去問に当たればよいだろう。
最後に全般的な学習法としては、まず、教科書の一読をおすすめしたい。この中に出題のヒントが隠されているわけである。とりわけ、光学系や原子物理などについては、普段はとりあげないような題材も含んでいるので、教科書学習が有効だろう。時間がなければ、熱力学、光学系、電流回路と原子物理だけでもよい。
その上で、早稲田大学理工学部、東北大学理系の後期日程分や大阪大学あるいは京都大学などの過去問演習が良いだろう。あるいは、教材をほかの医科系大学の入試問題に求めるならば、大阪医大や藤田保健衛生大学、慈恵会医科大学の過去問演習も役に立つ。