数学Ⅲの学習に『受験生という意識で』取り組もう

高3に入ると(進度の速い学校では高2の最初か途中から)、皆さんは数学Ⅲを学んでいきます。その中でも特に「極限」や「微・積分法」といった分野は、計算したりグラフを描いたりすることが中心となり、授業を受けていても「単に計算しているだけだなあ」という印象を抱くかも知れません。教科書レベルと入試レベルの差も、一部の特殊な解法を用いる問題を除き、それほど感じられなくなります。…が、皆さんはもうすぐ入試問題を解かなくてはなりません。その意識は持てているでしょうか?

特に極限・積分法については、計算問題でもやや複雑になると立派に入試問題として「機能」し、特に私立大医学部では好んで出題するところがあります。受け身の学習、問題集の解答を読んで理解するだけの学習に偏り、計算練習をおろそかにしてきた「自称・受験生」は、ここで壁にぶち当たります。計算問題で、どの公式を用いるべきか素早く判断できるようになるには、学んだ公式を頭の中(もしくは表など)で整理して各々の公式が使える場面を覚える必要があります。筆者も数学の指導者として、「数学も暗記科目だ」とは言いたくないのですが、

場合によっては、暗記しなくてはならない事柄・場面もある

と思います。

皆さんは、今まで数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bの学習をしてきて、解法パターンを網羅するんだ網羅するんだと言われ続けながらも、イマイチその意味が理解できなかったかも知れませんが、大事な時期にここで挫折を味わってしまうと、数学はもとより今後の学習全体のモチベーションも左右しかねないことですので、そのために言われていたような側面も、実はあります。

注記:数学Ⅱの教科書に、三角関数で学ぶ「半角の公式」「積→和の公式」が使用頻度は低いわりに大きく扱われていたのも、ここで使うからというのが実は大きかったりします。こういった公式の使い方は、最初は昔の偉い人がいろいろと試行錯誤した結果考え出したものですが、覚えてしまえば単なる作業に近くなることがわかるでしょう。

たかが計算ですが、されど計算。式の見た目に圧倒されないためには、しっかり準備(網羅)しておく必要があります。その積み重ねで徐々にレベルの高い問題が解けるようになるのだという教科の特性を(今さらかもしれませんが)意識しつつ、学習を進めていきましょう。

今だからこそ『公式の導き方』を復習してみよう

他にも、2次曲線の式の形を導く際には、数学Ⅱの教科書の「図形と方程式」で、円と直線、軌跡といった内容を復習できるなど、数学Ⅲの学習を進めるうえで、数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bの内容を復習するチャンスは多くあります。その際、単に出来上がった公式を覚え直すだけでなく、教科書や参考書でそれらの公式がどう導かれているかも、ついでに復習するよう心がけましょう。例えば、円x^2y^2=r^2の周上の点(x1,y1)における接線の方程式はx1x+y1y=r^2と表されることが知られています。覚えやすい形をしており、便利な公式ですが、使い方を誤ったことはありませんか?

「使える条件を正しく知り、使える状況を見分けられるよう、練習を積みなさい」と言われ、確かに教科書をよく読めば書いてあることですが、それがまた丸暗記になってしまうと、何より数学の学習が苦痛になってしまいます。苦痛に感じずに反復練習できるという人も、学習が「作業」になってしまっていると、ポイントが押さえられず、次また間違える羽目になってしまい、堂々巡りのようになってしまいます。そこでおススメしたいのが、一旦「導き方」まで戻ることです。教科書で公式の導き方を確認すれば、点(x1,y1)が円上にあることが、垂直条件にも右辺がr^2になる理由にも絡んでくることが分かると思います。そういった経験は必ず皆さんの中に残りますから、使える条件を見誤るミスは、ほぼ無くせると思います。もちろんこういったことにかけられる時間は限られますが、ここぞというときに自発的に出来るようになれば、しめたものです。

最近はやや減ったように思いますが、定義そのものや、公式の導き方などを書かせる入試問題を出題するような大学も一定数あります。大学の側も、皆さんが数学をどのように学習しているか、その「文脈」を知りたがっているのだと、筆者は勝手に思っています。もちろん、難化傾向にある中で高得点が求められるというのが、医学部入試の全体的な流れではあります。が、それに惑わされ過ぎて、数学の本来の学習の仕方を見失うようなことだけは、絶対にあってはなりません。

入試問題は、大学から受験生の皆さんへのメッセージ

という意識で問題演習に臨んで下さい。なかなか問題が解けるようにならない中にも、皆さんなりに何かの「気づき」があるはずです。それらが自分の中で繋がってくると、途端にいろいろな問題が解けるようになったりするものです。

見通しよく問題を解こう/小さな工夫の積み重ね

数学Ⅲの微・積分法と並んで、医学部の入試問題で頻出とされる分野が「場合の数・確率」ですが、確率の最大・最小、数学Bの漸化式との融合、数学Ⅲの極限との融合などを含めたひととおりのパターンに触れたら、次の段階ではよりレベルの高い問題に取り組みつつ「問題の流れ」を意識するようにして下さい。

この問題のように、「XまたはYの確率」と問われたときに、通常まず考えることは、Xの確率とYの確率を求め、これらを加えたものからXかつYの確率を引く、という方法だと思います(もちろん通常はそれでOKです)。が、問題文をよく読んでみると、この問題ではXかつYの確率の方があとの設問になっていますから、出題者は少なくともそう意図して問題を作っているわけで、もっと言えばどの確率を求めるのが優しくてどの確率を求めるのが難しいか、問題文から読み取れるわけです。序盤の条件設定が「重い」問題に出合ったときこそ、問題文の意味を理解するだけで精一杯になってしまわず、ひとまず全体を見て、出題者の意図を読み取ることも意識して下さい。

コミュニケーション力養成も、答案作成から

最後に、今さら言うまでもありませんが、入試問題に取り組む時期が刻一刻と迫って来ている中、皆さんに意識して欲しいのが「記述」です。入試問題が大学から受験生へのメッセージだとしたら、

受験生の皆さんから大学へのメッセージは、入試問題の答案

です。当然ですが、記述問題の場合、どういう人が採点するか、皆さんは知りません。答案の中で、皆さんは、自分の方がライバル達よりも優れているということを、一生懸命アピールします。計算結果が合っているだけでなく、何のためにその計算をしているか、きちんと表現できていますか。答案から計算などを除いた部分も、きちんと「文章」として成り立っていますか。まずは、普段の演習から説明などにも手間と時間をかけ、きちんと清書する習慣をつけましょう。数学の答案作成は論文の執筆のような側面もあり、いわゆる「小論文」や国語の試験よりも、かえって国語力が要求されたりもします。

時間がないときなど、どうしてもという場合は、記述部分を省略しなければならなくなることもあるでしょうが、大事な部分を抜かしてしまうと、それが原因となって大きく減点されることにもなりかねません。1つ前の話とも関連しますが、採点者が「ここを見たい!」と思うであろう部分は、どんな状況においてもしっかり書くべきなのです。まずはきちんとした答案が書けるようになったうえで、状況に応じて枝葉の部分をそぎ落としていけるのが理想です。最も極端な場合が、方針らしきものは立ったが、具体的な計算までやっている時間までは無さそう、といった場面です。そんな場合、何かひと言、「以下、○○を求める。」「○○の場合について考えればよい。」というふうに、何か書いておけば、それで部分点が得られるかも知れません。

こういったことは、会話やプレゼンなどにも通じると思います。相手は皆さんが言おうとしていること(話題)に関して、どの程度まで予備知識を持っているか、場面によって様々でしょうし、また、皆さんが言うことを、時間がかかっても最後まで聞きたいとは限らないわけです。丁寧な説明を求められたときはそうする。短くまとめるよう求められたときはポイントを端的に伝える。昨今、入試でも面接やプレゼン、グループ討論などが導入されてきていますが、数学の試験もこれからそうなっていくかも知れません。が、皆さんは必要以上に惑わされないで下さい。その基礎の部分は、これまでの学習でしっかり身についているはずです。

少し話がそれてしまいましたが、高い目標に向けて、様々なアプローチを試み、どうか皆さん良い結果を出して下さい。