数学Ⅱ・Bは学習の『深度』が問われる分野

多くの高校では、高2で数学Ⅱ・Bを学習します(教科書的にはⅡとBの2科目で、センター試験では2科目を合わせて60分の試験が実施されます)。そこでまず感じるであろうこととして、基本事項自体が難解になることがあげられます。三角関数などの分野では、覚えるべき公式の数が一気に増えますし、数列やベクトルのように、次々と様々な記号や記法(書き方)などが出てきて、それらを使いこなすだけで一苦労という分野も、この時期に集中します。

すると、どうしても、皆さんは教科書や参考書を「なぞる」だけで精一杯の学習に陥りやすくなります。習得すべき基本事項の分量に対して、純粋に演習量が不足しやすくなるのはもちろんですが、そもそもどんな公式があるかといった「概観」を得る余裕も無くなりがちです。それだけに、数学Ⅱ・Bは、入試でも大きく差がつきやすい箇所になります。

分野融合問題への取り組み方が明暗を分ける

これだけでも十分ウンザリしたかも知れませんが、それ以上に注意が必要なのが「分野融合問題」です。そもそも、学ぶ基本事項が一気に増えるということは、これまでに得た知識との融合パターンも一気に膨れ上がるということです。医学部を目指すのであれば、なるべく高2の間に入試レベルの問題に多く触れ、学んだ基本事項が入試でどのように出題されるか、感じ取るように心がけて下さい。

一見何でもない問題に見えるかも知れませんが、のような問題を、皆さんならどのように解きますか?出題分野としては数学Ⅱ「図形と方程式」に分類されるので、そこで習う内容メインで解こうとすれば、まずは中心の座標を(p,q)のようにおいて、点と直線の距離の公式を使うことに気づくべきでしょう。が、この公式には√記号と絶対値記号が含まれるので、そこから導かれた方程式を解く処理が煩雑になり、おすすめ出来ません。そこで思い出して欲しいのが数学A「図形の性質」で学ぶ、内心の定義です。三角形の内角の二等分線が交わる点が内心ですが、そこでさらに2つほどの方法が考えられます。1つは、やはり「図形の性質」で学ぶ、角の二等分線と比の定理を用いると、角の二等分線が対辺を何対何に内分する点を通るか分かるので、通る点を考えて方程式を作り、連立して解きます。もう1つの方法は、tanの加法定理を用いて角の二等分線の傾きを求める方法です。加法定理は数学Ⅱ「三角関数」で学ぶ知識なので、そこまで学習してから考えて欲しいですが、三角関数で学ぶ多くの公式の中から、この問題で使えるものを選び出すことが必要になります。

さらに、本問では与えられた図形の特徴に着目すれば、処理は一段と楽になります。3辺の長さを求めれば、三平方の定理の逆よりこの三角形は直角三角形とわかります。すると、内心と2つの接点、1つの4頂点とする正方形を作ることができますから、ここで数学A「図形の性質」で学ぶ円の接線の性質(注記:円外の点から円に2接線を引くとき、2接点までの距離は等しい)などを思い出せば、何も難しい公式を使わなくても、内接円の半径も中心も分かってしまいます。この三角形が直角三角形であることは、テスト用紙の余白に図をかくとき、与えられた数値に「ある程度」忠実にかけば「あ、そうじゃないかな?」と気づく範囲かと思いますし、2接点までの距離については、知ろうと思えば中学内容(注記:円の接線が接点を通る半径に垂直であること、および直角三角形の合同条件)を学んだ時点で可能です。医学部を目指す皆さんであれば、問題文を読み、図をかきながら、皆さんなりに様々な解法を考え、それぞれの方法で解いたらどうなるかを想像し、その中からベストと思われる解法を素早く選択できるようになっておく必要があります。

先ほど「三角関数」の話が出てきたので、筆者の記憶に残る「名作」(?)とでもいうべ入試問題についても、ついでにふれておきます。この問題も三角関数に関するものですが、答案を書くと以下のようになります。まず、数学Ⅰ「集合と命題」で学ぶ背理法の仮定で、tan1°が有理数であるとします。次に、tanの加法定理と、数学B「数列」で学ぶ数学的帰納法という証明法を組み合わせて、tan2°,…,tan29°,tan30°がすべて有理数になってしまうことを述べますが、tan30°の値は無理数(※分数で1/√3)ですから、矛盾が生じます。様々な分野の知識が必要といえば必要ですが、それらの組み合わせ方さえ見えれば、それほど難しい計算は必要ありません。メインで問われていることは

高校数学全体が概観できているかどうか

ではないでしょうか。そして、前述のような組み合わせ方を何故考えつくかというと、教科書で覚えたtanの値がどんな数だったか、また、加法定理を用いる問題をいろいろ練習してきたと思いますが、どんな問題設定のときにどんな答えが出てきたといった経験があるからです(もしくは、そういう経験をこれから皆さんが積むからです)が、皆さんは今までに学んできた(はずの)ことを、そのレベルで蓄積できているでしょうか?

高2はこれまでに学んだ知識を整理し深める最後のチャンス

差がつく問題はもちろん以外にも山ほどありますが、こういった問題に出合っても面食らわずに取り組めるためには、周到な準備が必要です。日頃から、ちょっとした課題に取り組む際にも様々なことに気を遣い、問題を解いた後も単に答え合わせをするだけでなく、他にも良い解き方はないか、間違えたら次からはどうすれば間違えないかといったことを、常に自問しましょう。加えて、参考書などの解説やコラムなどに書かれている内容も、出来れば隅から隅まで読み、少しでも有益だと感じたことは、どん欲に吸収していって欲しいと思います。

そのような考えを持ってもらったうえで、数学Ⅱ・Bの教科書にひととおり目を通し、そのあと数学Ⅰ・A(と出来れば中学3年間)を読み返してみましょう。「あれっ、ここにこんなことが書かれていたのか!」という発見がきっとあるはずです。進度の早い学校であれば、数学Ⅱ・Bに加えて数学Ⅲの学習にも入っていくかと思いますが(もちろんこれ自体も悪いことではありません。数学Ⅲの新しい公式を導く際に、数学Ⅱを中心とした既習範囲の知識が様々に使われるので、良い復習のチャンスになります)、先に進むことと、今までの学習を振り返ることとのバランスを、うまくとりながら、これからの学習に臨んで欲しいと思います。入試の時期が迫ってくると、教科書レベルの内容をじっくり振り返れる時間はありません。実感がわかないかも知れませんが、

高2の1年間は、数学の基本事項をじっくり学習できる最後のチャンス

という意識を持って下さい。