数学Ⅰ・Aは、受験数学の基礎

高1の皆さん(と中高一貫校の中学生の皆さん)が、高校数学で初めに学ぶのが数学Ⅰ・Aです(教科書は「数学Ⅰ」「数学A」に分かれていますが、センター試験ではこの2科目をまとめて60分の試験が実施されますし、本記事でも「数学Ⅰ・A」と呼ぶことにします)。数学Ⅰ・Aは、大学受験の数学全体の基礎になりますが、それには大きく分けて2つの側面があります。

1:数学Ⅰ・Aで学ぶ2次関数・三角比などの分野の知識が、のちに数学Ⅱ・B・Ⅲで学ぶ様々な分野の基礎になっている。

2:数学Ⅰ・Aの基本事項を学んでから応用問題(大学入試問題など)に取り組むまでの流れが、数学Ⅱ・B・Ⅲにも共通している。

皆さん自身も、中学校までのどこかで「1」については経験されたでしょう。以前に習った内容を忘れていることに気づいたら、面倒がらず適宜復習するようにし、知識の穴をなくしましょう。そのうえで、以下では「2」に関して述べたいと思います。

中学までの『貯金』はあっという間になくなる!

よく、「中学までは数学が得意だったのに、高校(内容)に入ってから数学が急に分からなくなった」という話を聞きますが、その原因の1つとして

高校数学では、学ぶ内容の抽象度が『格段に』アップする

ことがあげられます。高校数学で初めて出てくる公式の1つに「2次方程式の解の判別式」がありますが、筆者自身もまさにここでつまずきました。のように、教科書で最初に習うそのままの問い方をされている間は、公式にあてはめるだけで済みますが、実は、判別式を用いるとのように2次関数のグラフや2次不等式、2次方程式の様々な条件について調べることもできます。「こんな問われ方の問題で、判別式を使うのか!思いつかなかった!」「なるほど、判別式をこんな式とも組み合わせるのか!でも何故そんな方法を思いつくんだろう?」といったことが、高校数学ではたびたびあります。見るからに複雑な式の計算や図形問題、長い文章題などとは違った質の「難しさ」が、高校数学では待ち受けています。それに合わせた学習法を数学Ⅰ・Aのうちに身につけないと、大変なことになります

解法の網羅と思考の鍛錬

さて、皆さんに十分危機感を持ってもらったところで、「そんな方法」をどうすれば思いつくようになるかという話に移ります。分野の特性にもよりますが、先ほどの「判別式」も含めて、初見では迷ってしまうけれど、類題の解き方をあらかじめ教えてもらったり本で読んだりして習得しておけば、その方法をそのままあてはめるか、若干アレンジするかで対応できる問題が、高校数学にはよくあります。そこで、「解法に気づきにくいが、よく狙われる」出題パターンにひととおり触れておこうという考え方が生まれます。これが「解法の網羅」です。最初のうちは暗記に近い学習になるでしょうし、練習といっても習得した解法をただ再現するだけに、どうしてもなってしまうでしょう。特に私立大の医学部では、それで事足りる問題も出題されますが、一般に良問とされる問題は、習得した解法のアレンジの仕方や、複数の解法の組み合わせ方が適度に目新しく、受験生にひと手間加えさせるようになっています。教科書の基本事項すら十分に理解できていない、与えられた課題をただこなしているだけ、そんな状態ではまるで話になりません。

教科書や参考書などである程度まで解法を網羅したら、次にやって欲しいのが「思考の鍛錬」です。基本的には高いレベルの問題にチャレンジするのですが、答えに辿り着けなかったら、解答を見たり誰かに教えてもらったりして、何故解けなかったのか、どうすれば解けるようになるかを分析します。

  • 自分では基本事項を理解していたつもりだったが、不十分だった。
  • 問題文の意図を正しくとらえられなかった。
  • 解法が網羅できておらず、知識に抜けがあった。
  • 習得した知識がうまく使えなかった(組み合わせられなかった)。
  • 試みた解法の効率が悪く、途中でミスしたり挫折したりしてしまった。
  • 自分の考えが答案に表現しきれておらず、評価してもらえなかった。

まだまだいろいろありますが、思考の鍛錬において最も大事なのは、とにかく失敗を恐れないことです。失敗をそのままにせず自分の中で「消化」してやることで、徐々に「次からはこうしよう(こうしないでおこう)」という方向性が出てきます。さらに練習を積んでいくと、そのうち「あ、これは気を付けないと失敗するパターンだ」と、だんだん気づけるようになります。特に「場合の数・確率」は、思考の鍛錬にはもってこいです。のように、問題の条件がちょっと変わると、難易度も、最適な解法も、ガラッと変わります。苦手な人はこの部分が苦手なのでしょうが、入試では大変よく出題される分野ですから、するべき失敗は今のうちにしておき、あとで悩まずに済むようにしたいものです。

そして記述力・表現力

最後になりますが、高校内容に入ると「答案」も格段に長くなります。記述式の試験では、計算だけでなく、何故その方法で答えが出てくるのかの説明も、きちんと書くことが求められます。特に国公立大の医学部を目指す皆さんには、平素から

ノートにどんどん日本語を書くこと

を心がけて欲しいと思います。皆さんにとってのゴールは、入試問題において、計算などがきちんと出来ているのはもちろん、説明の部分も「純粋に文章として読める」答案が書けるようになることです。ノートの日本語は、その第1歩。授業を受ける際は、出来れば板書だけでなく先生の発言なども積極的にメモしましょう。参考書・問題集の問題を解き、答え合わせをする際は、隅々まで読みましょう。まったく手がつけられなかった問題については、模範解答を、計算だけでなく、説明部分も含めて全部書き写しましょう。最初は丸写しでも構いませんし、意味が分からなくても結構です。分からないなりに、とりあえず語彙(ボキャブラリー)を仕入れておけば、必ず次につながります。

そして、書くだけでなく、話すことも大事です。授業でも「分かりません」とだけ言うのではなく、何かしら説明らしきことを試みましょう。間違っていても構いません。とりあえずは何を言いたいのかだけでも相手に伝われば、直してもらえます(「教えてあげよう」という気になってくれます)。思考の鍛錬でも同じようなことを言いましたが、とにかく失敗を恐れないことが大事です。中学までの算数・数学が苦手だったという人も、書くこと・話すことを苦にしなければ、今まで数学が得意だった人たちを逆転することも十分可能ですから、諦めずに学習を進めていって下さい。