自学自習を制する者は受験を制す

よく、「中学までは数学が得意だったけれど、高校に入ってから分からなくなった」という話を聞きます。内容自体も高度になりますし、使えるようになるべき公式等の量もグッと増えます。それによって、授業1コマで扱われる内容が、その時間内に消化して自分のものにしきれるラインを上回ってしまうのですが、「数学が分からない」と感じる瞬間の1つが、そのときなのかも知れません。そんなとき、皆さんがすべきことが、大きく分けて2つあります。

  • 授業内では、扱われる内容を完全に理解できなかったり覚えきれなかったりしても、とにかくノートをとったり、ず教科書の前後のページを参照しながら一旦先へ進んだりする(授業についていく)
  • 授業以外にも学習を行い(宿題や課題も含む)、授業で扱われた内容を反復練習することによって、授業中に理解しきれなかったところを復習したり疑問点として残るところを発見したりする

皆さんが目標とする大学・学部に合格するには、どんなに「受験に強い」と言われる学校や予備校にいたとしても、ただ授業を受けているだけではダメで、自学自習が欠かせません。そこでは、使う「教材」の役割が、授業以上に大きくなってきますから、どのような教材があり、それらをどう使い分ける必要があるか、頭に入れておきましょう。

学校用教材その1:授業用

  • 検定教科書(または教科書型テキスト)
  • 受験編テキスト
  • 授業プリント

検定教科書は、言うまでもありませんが国の検定を受けた教科書で、学校の授業ではその内容を扱うことになっています。教科書学習を終えたら、進学校と呼ばれる学校では演習の授業が行われますが、そこでテキストとして使われるのが、「受験編」といったタイトルの付いたテキストです。これらを補助するものとして、授業プリントがあります。

検定教科書の最も大きな特徴は、新しい公式や概念の「導き方」がほぼ必ず載っていて、さらに前のページで出てきたことを使って後のページの内容が導かれていることです。

(注記)例えば、xの3乗を微分したら3かけるxの2乗になることだけ暗記しておけば、微分の計算や関数の増減の問題も解けてしまいます。が、微分(導関数)の公式を導くためには「極限」という概念が必要で、それは微分の公式を導入するより前にあります。こういった「論理のつながり」は、授業を受けながらでないと、なかなか理解できません。筆者の感覚ですが、教科書をただ読むだけで内容を把握・理解できるのは、授業を受けてから1年から2年ぐらい後になってからだと思います。

が、内容の厳密さが優先されるところがあり、皆さんが自力で読むには難しい部分もあります。授業を受けた直後などならまだしも、考査前などに検定教科書を読み返すのは負担ですし、学習の効率としてもあまり良いとは言えません。公式をただ覚えたり思い出したりしたい人は、教科書よりも傍用問題集(後述)の表紙の見返しなどの方がコンパクトにまとまっていて便利ですし、問題の解き方であれば参考書の模範解答の方が詳しく書かれています。

受験編テキストと言えば、見開きで1つの小単元(分野の一部)を扱い、その左上から右下に向かって概ね易しい順に問題が並んだものを、真っ先に思い浮かべます。学校の生徒や志望大学・学部のレベル別に幾つかのタイトルがあります。こういったテキストで授業を進めるには、教科書の基本事項がマスターできていることが前提になります。授業進度の速い学校では、高2以下の学年から一部の授業で受験編テキストが使われ、教科書+α程度の内容の反復・定着を目的とした授業が行われます。

学校用の教材その2:課題用

  • 傍用問題集(教科書傍用/教科傍用など)
  • ワーク(長期休み用など)
  • 課題プリント

教科書と一緒にもらう問題集のことを、市販のものなどと区別する意味で傍用(ぼうよう)問題集といいます。これとは別に、夏休みなどの長期休みの宿題用には薄いワーク(解答が冊子の中に書き込めるようになっている)を渡されることもあります。これらの代用として、課題プリントがあります。

傍用問題集と言えば、かつては詳しい解答が別冊で付いていないものが多く、受験生の悩みのタネの1つになっていました。今でも、別冊解答を生徒から取り上げ、授業が終わるまで返さない指導者が少なからずいます。逆に、別冊解答を最初から渡される場合は、宿題に出さないものも含めて自主的にどんどん進めていって欲しいと理解しましょう。

問題集だと分量が多すぎたり、逆に演習量が不足したりすると考える指導者は、課題プリントを作って配布したりします。

(注記)もっとも、クラスの実情や数学にかけられる時間なども考えたうえで、全員に解けて欲しい問題をきちんと集めているか、定期考査に出題して解けなかったときの言い訳(課題プリントをちゃんとやっておかないからだ!)に使いたいだけなのか、少々微妙なところもあります(笑)

なお、最近は多くの学校で「参考書」も一括採用することが多くなり、以前は一般の書店でも売られていた総合(網羅系)参考書も、一部を除いて徐々に学校採用専用の教材になりつつありますが、これらも本記事では市販の参考書・問題集とまとめて後述します。

市販の参考書・問題集その1:主に教科書学習用/受験準備用

  • 総合参考書
  • 導入書
  • 演習書
  • 問題集(市販問題集)

皆さんが「参考書」と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、「チャート式」を代表とする、教科書学習から受験準備までの内容が1冊にまとまった参考書でしょう。筆者はこういった参考書を総合参考書、または網羅系参考書と呼んでいますが、こういったものを1冊すみずみまでやれば、かなりのレベルまで到達することが可能です。が、この手の教材の宿命として、到達レベルが高くなるほど、易から難まで幅広いレベルの問題を収録し、かつ様々な出題パターンに対応するため、分量が著しく増えていってしまうという点があります。多くの高校生・受験生にとって、この手の分厚い参考書は、学校の指導者が管理やサポートをしてくれて、初めて「成り立つ」と考えるべきです。この手の本を、完全なる自学自習で進めていこうとすれば、問題が「基本/応用例題」「難易度マークが○○個~○○個」のように分かりやすく分類されていて、かつ取り組もうとしている問題のうち3割程度は解法がすぐ思い出せるようになったうえで(「分からないところ」が分かるようになる必要があるため)使うようにしましょう。

他の参考書・問題集は、いわば総合参考書の内容の一部分だけを取り出し、より詳しくしたり、掘り下げたりしたものととらえましょう。講義調(著者・講師の話し言葉で書く)を採り入れるなどして、導入部分を詳しくしたものが導入書。問題のレベルを絞るなど例題を精選し、解答・解説を詳しくしたものが演習書。問題が並ぶ部分(総合参考書で言えば節末・章末など)を取り出したものが問題集になります。

まずは各自のレベルに合った総合参考書を何か選んで下さい。そして、やりきれない部分、足りない部分などを、他の教材で小分けにして補っていってください。例えば、予備知識が不足している場合は、講義調の導入書をひととおり読んで大体の内容を頭に入れてから参考書に取り組みます。参考書の例題を一通り網羅するだけでは、計算練習が不足しやすいので、そこを補うのは問題集の役割です。また、例題をページの順にやっていくだけでは、次のパターンがある程度「読めて」しまうので、力試し・復習を兼ねて別の演習書や問題集に取り組めば、学んだ(はずの)知識が使えるようになっているか、確認することができます。

市販の参考書・問題集その2:主に過去問演習用

  • 大学別などの演習書(センター試験の模試形式の問題集を含む)
  • 過去問集(大学別/年度版)

過去問演習に入ると、使う問題は主に「問題集」になるかと思いますが、最近は、大学別の過去問を詳しく解説した導入書・演習書も見られるようになりました。

過去問集は、大学別のもの(いわゆる赤本が代表格)、年度版のもの(複数の大学・学部・入試日程にわたって、その年に出題された入試問題を収録したもの)がありますが、皆さんが主に使うであろうものは恐らく前者で、後者は主に指導者用でしょう。なお、実際に受験はしない大学・学部の過去問集も、力試しや類題演習のために利用できます。良問と言われる問題を多く出す大学・学部の話は、指導者に聞くことができるので、そういった情報にも耳を傾けるようにしましょう。

予備校や塾の授業用の教材など

  • 予備校や塾のテキスト
  • 映像授業など
  • 模試
  • 通信添削教材
  • 大学受験数学月刊誌

あくまで筆者のイメージですが、「予備校のテキスト」と言うと、その授業のためだけに作られた薄い冊子を連想します。紙面には、授業で扱われる内容だけが載っていて(数学の場合は最悪「問題文」だけ)、ノートをとるための余白が多くとられていることが多いようです。テキストの内容を決めるのは、授業が行われる回数や1回の授業で扱える内容の量であって、重要な内容であっても、そのクラスの授業で扱われないものは載らないこともあります。

また、講師が対面で授業を行うのでなく、映像授業を見せる塾などもあります。聞き逃した内容は巻き戻してもう一度再生したり、逆に分かりきっている部分は早送りしたりできるメリットもありますが、受け身になりやすいうえ、多くは学校の授業の繰り返しになるので、よほど学校の授業のレベルが合わない(高すぎるもしくは低すぎる)場合を除いて、慎重に活用していく必要があります。

さて、学校や予備校などの授業に頼らず、自学自習を中心に学習を進めていっている人もいるかと思いますが、そういった皆さんに是非活用して欲しいのが、模試と通信添削教材です。独りよがりに陥らないため、自分の答案を客観的に評価される機会を持つようにして下さい。毎年1年かけて、入試の基礎レベル(よりやや上?)から標準・難レベルまでの内容を扱っていく月刊誌がありますが、最難関の大学・学部を目指す受験生の間では、ああいったものに取り組むことが1つのステータスになっているかも知れません。無理をしてまで取り組む必要性は感じられませんが、受験生は孤独なものですから、そういったレベルの受験生がそれぞれの時期にどういったものに取り組んでいるかを知り、自身の学習の参考にすることには、一定の意義があると思います。

その他の教材

  • 学習法などを扱った書籍類
  • 大学受験数学読み物
  • 学習参考書以外の数学を扱った書籍類

人間ですから、いつも淡々と学習を進めてはいけないでしょう。せっかく学習するのだから、学習する内容に少しでも親しみが持ちたいとか、受験のプレッシャーから離れて、「ゆったり」数学というものを見直したいとか、様々な欲求があるかと思います。あまりにも学習から逸脱したことはして欲しくないですが、少しぐらいは「息抜き」をして、良い意味でメリハリをつけて次の学習に臨むということは、あって良いと思います。

そんなときには、入試問題自体の解説より周辺事項や「こぼれ話」などに重点が置かれた「読み物」的な参考書でもよいですし、いっそ学習参考書として売られていない(社会人向けなどの)数学の本などでもよいですから、広い意味で「数学の学習」に対する視野を広げられるような本を、何か手元に置いてはどうでしょうか。

数学教材の系統

学習サイクル 番号 名称 学校用教材 塾・予備校用教材等 市販教材(自学自習用)
基礎サイクル 1-1 基礎の導入 検定教科書・授業プリント等 テキスト・映像授業等 導入書(初学者向け)
1-2 基礎の練習 傍用問題集・課題プリント等 通信添削教材(主に高2まで) 参考書・演習書(初~中級)
1-3 基礎の確認 総合参考書・その他ワーク等 模試(主に高2まで)等 市販問題集(初~中級)
応用サイクル 2-1 応用の導入
授業プリント等 テキスト(主に高3以降)等 参考書(上級)・導入書(上級)
2-2 応用の練習 受験用問題集・課題プリント等 通信添削教材(主に高3以降) 演習書・市販問題集(上級)
2-3 応用の確認 実力テスト・模試(校内実施) 模試(主に高3以降)等 過去問集・模試形式問題集
(準備サイクル) 0-1~0-3   映像授業等 導入書(学び直し向け)
(実戦演習サイクル) 3-1~3-3 演習プリント等 志望校別講座・テストゼミ等 大学受験数学月刊誌

※その他 学習法などを扱った書籍類・大学受験数学読み物・学習参考書以外の数学を扱った書籍類