これまでの章では酵素の性質と反応速度が増える条件を学んできました。ここからはこの逆で、いかにして酵素反応が阻害されるか学びます。阻害には競争的阻害と非競争的阻害の2種類があります。 これらの阻害についてもやはり工場の例で考えていきましょう。

競争的阻害

まず、競争的阻害についてです。いま、本物の材料と非常によく似た偽物の材料があるとします。この偽物は本物と見分けがつかないほど似ているので、ひとたび混入してしまうとより分けることは不可能となります。 競争的阻害においてはこの偽物が悪さを働きます。ある日、この工場を経営する会社を敵対視するライバル社のスパイが工場に侵入し、偽物を本物の材料に混ぜてしまいました。すると、当然偽物はベルトコンベアに流れてしまうわけです。 この偽物は本物の材料と競いあうかのようにベルトコンベアの上を流れはしますが、ただ流れるだけで何の製品もできません。 つまりこの偽物が流れた分だけ無駄にベルトコンベアを使ってしまうことになり、その分だけ製品の生産量は低下してしまいます。工場の生産性が低下したのですからライバル社は大喜びです。 このように、本物と同じようにベルトコンベアを流れはしますが、製品ができないものを競争的阻害物質と呼び、これによる阻害を競争的阻害と言います。

競争的阻害:偽物が混じって生産量低下

それでは、ここからは具体的な数値を用いて競争的阻害について説明していきたいと思います。スパイがベルトコンベアに1kgの本物の材料と1kgの偽物を乗せたとします。 全部で2kgがベルトコンベアを流れていくわけですが、実際には本物が1kgしか含まれていないので、できる製品は材料1kg分というわけです。もし、偽物の材料がなく、本物だけを2kg乗せていたとしたら、材料2kg分の製品ができるわけです。 ですから本物だけのときと比べると、生産量は実に50%も低下していることが分かります。次に、9kgの本物と1kgの偽物を乗せたとします。 今度は合わせて10kgがベルトコンベアの上を流れていくことになるのですが、本物は9kg含まれておりますので、製品も9kg分できることになります。 もし、偽物の材料がなく、本物だけを10kg乗せていたとしたら、材料10kg分の製品ができるわけです。ですから本物だけのときと比べると、生産量の低下は10%に押さえらられていることが分かります。 スパイが混入した偽物の量が同じ1kgでも、本物の材料が少ないときに比べて多いときの方が、偽物の影響が格段に小さくなっていることが分かります。 つまり、偽物の量が一定の場合、本物の量を増やしていけば偽物の影響はどんどん小さくなっていくのです。 ただ、ベルトコンベア1本分の生産量には限界がありますから、いくら材料をたくさん乗せたとしても生産量が際限なく増加するのではないことに注意してください。ここまでのことを以下にまとめます。

競争的阻害

偽物の量が一定のとき、
本物の量が少ない:偽物の影響が大きい
本物の量が多い:偽物の影響が小さい
→偽物の影響を無視するためには本物の量を増やせばよい

以上のことを酵素と基質に置き換え直してみます。

競争的阻害

競争的阻害物質の量が一定のとき、
基質の量が少ない:阻害物質の影響が大きい
基質の量が多い:阻害物質の影響が小さい
→阻害物質の影響を無視するためには基質の量を増やせばよい

非競争的阻害

ある日、またもやこの工場はスパイに潜入されました。スパイは前回と同様の手口だとバレてしまうと考え、別の手口で妨害してきました。 その方法とは、材料に偽物を混ぜるものではなく、ベルトコンベア自体をダメにしてしまおうという考えだったのです。 侵入したスパイは欠陥部品をベルトコンベアに付け加えることで、たとえ本物の材料が流れてきたとしても、製品がつくられないように故障させてしまいました。 すると、当然故障したベルトコンベアではただただ材料が流れるだけで製品がつくられませんから、そのベルトコンベアの生産量は0になってしまいます。 スパイが取り付けたこの欠陥部品のように、材料と競争するようにベルトコンベアを流れるのではなく、ベルトコンベア自体の生産性を0にしてしまう阻害物質を非競争的阻害物質と呼び、これによる阻害を非競争的阻害と言います。

非競争的阻害:ベルトコンベアを故障させる→生産量低下

それでは、ここから具体的な数値を用いて非競争的阻害について説明していきたいと思います。スパイが工場にした日、工場では5本のベルトコンベアが稼働していたとします。 スパイはこのベルトコンベアのうちの1本に欠陥部品を取り付けて故障させてしまいました。この状態で5本のベルトコンベアにそれぞれ10kgずつ、計50kgの材料(今回はすべて本物です)を流しました。 すると、故障していない4本は合計で材料40kg分の製品を生産しますが、故障した1本ではただただ材料が流れるだけで全く製品がつくられず、生産量は0です。 もし、ベルトコンベアの故障がなく、5本すべてのベルトコンベアが正常に稼働していた場合、材料50kg分の製品が生産できるわけです。ですから、ベルトコンベアが故障していないときと比べると、生産量は20%低下していることが分かります。 次に、ベルトコンベアに乗せる材料を増やして、それぞれに20kgずつ、計100kgの材料を流したとしましょう。 するとやはり故障していないベルトコンベアでは80kg分の製品がつくられますが、故障したベルトコンベアの生産量が0であることに変わりはありません。 もし、ベルトコンベアが故障していなかったら材料100kg分の製品がつくられるのですから、生産量の低下は今回も20%であることは変化しません。 スパイがベルトコンベアに欠陥部品を取り付けて故障させた場合、流す材料の量を増やしたとしても生産量は常に一定の割合で減少し、故障の影響はずっと残り続けます。ここまでのことを以下にまとめます。

非競争的阻害

欠陥部品の量が一定のとき、
材料の量が少ない:一定の割合で欠陥部品が影響
材料の量が多い:一定の割合で欠陥部品が影響
→材料の量を増やしても欠陥部品の影響は同じ割合で残り続ける
※欠陥部品を降り除くことでしか阻害を食い止めることはできない

以上のことを酵素と基質に置き換え直してみます。

非競争的阻害

非競争的阻害物質の量が一定のとき、
基質の量が少ない:一定の割合で阻害物質が影響
基質の量が多い:一定の割合で阻害物質が影響
→基質の量を増やしても阻害物質の影響は同じ割合で残り続ける

※阻害物質を降り除くことでしか阻害を食い止めることはできない

以上が酵素反応の阻害についての内容です。難しい範囲ですがしっかりとイメージを膨らませて理解していきましょう。