ここからは酵素の濃度と基質の濃度が変わると反応の速度がどのように変わっていくのか見ていきます。酵素と基質の濃度の話をそのまましていくと分かりづらい部分もありますから、ここでは工場の例に例えて説明していきます。いま、材料をベルトコンベアに乗せて製品を作る、という工場を想定してください。材料は製品に変化するわけですから、材料は基質、製品は生成物と捉えることができます。また、材料を乗せて製品を作った後もベルトコンベアは最初と変わらず動き続けていますから、酵素に例えることができます。ちょうど、「反応の前後で自身は変化しない」という性質を満たしています。また、この作業を行っている工場全体は細胞を表していることになります。

酵素濃度を変化させる

まずは基質の濃度は一定にして、酵素濃度を変化させるとどのように反応速度が変化するか見ていきましょう。酵素濃度を変えるということは、細胞の中に含まれている酵素の量が変わるということです。これは工場の中で稼働しているベルトコンベアの本数が変化することにあたります。最初、ベルトコンベアが1本しか稼働していないときには、材料が余ってしまい、ベルトコンベアが足りない状況です。ここで、ベルトコンベアの本数を2本、3本…と増やしていくと、それに伴って製品の生産量も2倍、3倍…と増えていきます。しかし、どこまでも生産量を増やすことはできません。なぜならベルトコンベアに乗せることのできる材料の量には限りがあるからです。例えば、ベルトコンベア5本に乗せるとちょうど材料がなくなるとします。このとき、ベルトコンベアを10本稼働させれば生産量は2倍になるでしょうか。もちろんなりません。実際に商品が乗せられて製品を作っているベルトコンベアは5本であり、残りの5本には材料が乗せられていないからです。今度はベルトコンベアが余ってしまい、材料が足りない状況です。5本のベルトコンベアにすべての材料をちょうど乗せたときが生産速度の最高値であって、これ以上ベルトコンベアを増設しても生産量は増えないのです。このように、材料の量が限られている場合、すべての材料がベルトコンベアに乗せられるまではベルトコンベアを増設すれば生産量は増えますが、それ以降はベルトコンベアを増設しても生産量は頭打ちになってしまいます。この状況を打破するためには、空いているベルトコンベアを稼働させるために、材料を新しく補充してくる必要があります。これまでのことをまとめてみます。

材料の量が一定のとき、

すべての材料がちょうど乗せられるベルトコンベアの本数まで(=材料が余っている):
ベルトコンベアの本数を増やす→生産量上昇

すべての材料がちょうど乗せられるベルトコンベアの本数以降(=ベルトコンベアが余っている):
ベルトコンベアの本数を増やす→生産量変化なし

※さらに生産量を増やすには材料を増やすしかない。

以上のことを酵素と基質に置き換え直すと以下のようになります。

基質濃度が一定のとき、

すべての基質が酵素と反応する酵素濃度まで(基質が余っている):酵素濃度を上げる→反応速度上昇

すべての基質が酵素と反応する酵素濃度以降(酵素が余っている):酵素濃度を上げる→反応速度不変

※さらに反応速度を上げるには基質濃度を上げるしかない。

基質濃度を変化させる

続いて酵素の濃度を一定にして、基質濃度を変化させたときに反応速度がどのように変化するか見ていきましょう。ここでもまた、工場の例で説明していきたいと思います。今回はその工場にベルトコンベアが5本あるとしましょう。ベルトコンベアが5本あったとしても1本にしか材料を乗せないのでは、結局残りの4本が稼働しませんから、生産量は1本分に過ぎません。ベルトコンベアが余ってしまい、材料が足りない状況です。ここで、材料を新しく調達してきて2本目、3本目のベルトコンベアにも乗せると、生産量は2倍、3倍となります。しかし、どこまでも生産量を増やすことはできません。なぜなら稼働するベルトコンベアの数には限りがあるからです。例えば、100kgの材料でちょうどベルトコンベア5本がフル稼働しているとします。このとき、材料を200kg乗せたら生産量は2倍になるでしょうか。もちろんなりません。いくら新しく材料を調達してきてベルトコンベアにたくさん乗せても、1本のベルトコンベアで一度に生産することのできる製品の量には100kgという限度があり、それを超えることはできないからです。今度は材料が余ってしまい、ベルトコンベアが足りていない状況です。5本のベルトコンベアに100kgの材料を乗せたときが生産速度の最高値であって、これ以上材料を乗せても生産量は増えないのです。このように、ベルトコンベアの台数が限られている場合、すべてのベルトコンベアに材料が乗せられるまでは材料をたくさん乗せるほど生産量は増えますが、それ以降は材料をたくさん乗せても生産量は頭打ちになってしまいます。この状況を打破するためには、余っている材料から製品を作るために、新しくベルトコンベアを増設する必要があります。これまでのことをまとめてみます。

ベルトコンベアの本数が一定のとき、

すべてのベルトコンベアが生産の限度となる材料の量まで(=ベルトコンベアが余っている):
材料の量を増やす→生産量上昇

すべてのベルトコンベアが生産の限度となる材料の量以降(=材料が余っている):
材料の量を増やす→生産量変化なし

※さらに生産量を増やすにはベルトコンベアを増設するしかない。

以上のことを酵素と基質の置き換え直してみます。

酵素濃度が一定のとき、

すべての酵素が基質と反応する基質濃度まで(酵素が余っている):基質濃度を上げる→反応速度上昇

すべての酵素が基質と反応する基質濃度以降(基質が余っている):基質濃度を上げる→反応速度不変

※さらに反応速度を上げるには酵素濃度を上げるしかない。

それぞれのグラフの形の違いにも着目してください。
以上が酵素と基質濃度を変えたときの反応速度の変化です。このような複雑な範囲に関しては、工場の例のようになるべく平易に例えることでイメージを膨らませていくとよいでしょう。