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小児てんかんの治療と今後について

取材先:聖隷浜松病院 小児神経科主任医長/聖隷浜松病院 教育タスクフォース  岡西 徹
取材人・文責:私立大学医学部に入ろう.COM 管理人 平野晃康

みなさんこんにちは、いろいろなお医者さんや先生に話を聞いてみようという対談シリーズ第5回です。今回は聖隷浜松病院小児神経科医長の 岡西 徹 先生にお話を伺いました。

岡西先生は富山大学医学部、名古屋市立大学医学部大学院を経て、トロント小児病院へ留学、一貫して小児神経科の道を究めてこられました。現在は聖隷浜松病院で小児神経科医長の職にあって、小児てんかんの外科治療を行っておられます。てんかん患者の脳を解析して病巣部分を特定し、切除範囲を外科医に執刀場所の指示を出すというお仕事です。

実は、小児てんかんの外科治療は日本ではまだ珍しく、患者の脳の解析をすることができる医師は日本に10人といないというフロンティアです。岡西先生は、このフロンティアを切り拓き、新しい医療の方法を日本に広めようと日々奮闘されています。

しかし、岡西先生も学生の頃から小児神経科のフロンティアを目指していたわけではなく、皆さんと同じような普通の高校生、普通の大学生でした。研修医時代から多くの出会いを重ね、そのたびにステージを引き上げられ、あるいは方針を修正しながら今に至っています。

皆さんにはこの対談と岡西先生のコラムから、医師のキャリアプランとはどういうものか、あるいは医療の最前線ではどのような活動が行われているのかなどを知っていただき、今後の進路を決める一助にしていただければと思います。

この対談は岡西先生のコラムに先立って、岡西先生の聖隷浜松病院でのお仕事、それから、そこに至るまでの先生のキャリアについてインタビューしたものをもとに当サイト管理人、平野が書きおこしたもので、文責は全て平野にあります。

平野先生、今日はお休みのところ(12月28日)お時間を頂戴して申し訳ありません。よろしくお願いいたします。

岡西いえいえ、名古屋からわざわざご苦労様です。

平野本日は、聖隷浜松病院での先生のお仕事と、そこに至るまでの先生のキャリアについてお話をお聞きしたいと思います。

岡西 徹岡西わかりました、それでは私の仕事の内容から説明しましょうか。まず、私の専門領域の一番大きな枠は小児科医です。そのなかでさらに、小児神経科を専門にしています。小児神経科は小児科のサブスペシャリティの中でも一番大きな領域で、脳やその他の神経に疾患があるこどもを診察する領域です。
小児神経専門医は日本に1000人くらいいますが、私はその1人です。さらにその中の小児てんかん治療を専門としています。現在てんかん専門医は日本に500人ほどですが、そのうち小児を診療する医師は300人程度だと思います。そしてさらに私は、小児てんかん患者さんの外科治療の治療内容を決める解析も行っているのですが、この領域の仕事をしている小児科医は日本で数人しかいません。
ここまでで分かると思いますが、私は医師の中では専門家の中の専門家という道を選んできた人間です。

平野医師の世界をまだよく知らない高校生に対して補足すると、医師免許を取得して初期臨床研修を受けただけではまだ専門家ではないのです。
学会が認定している専門医の資格をとると、その領域の医師として認められたことになります。
さらに、その専門を掘り下げたサブスペシャリティ専門医まで取得すると、ある領域の専門家として認められたことになります。
まだちょっとわかりにくい人のために図で示すと、下図のようになります。

岡西聖隷浜松病院では4人の専属の医師と専属の脳波技師、それから数名の他科から学びに来ている医師で構成されるてんかんセンターという部署に所属しております。我々のてんかんセンターでは薬物(内科治療)だけでなくてんかん外科(手術)も含めた包括的な診療をしている数少ない施設です。小児のてんかん患者さんに対しても外科治療を行っています。恐らく今年(2014年)は日本で1番沢山の小児のてんかん外科治療を行った施設だと思います。

平野てんかんというと脳の病気だと思いますが、てんかんに対する外科治療というと、脳の一部を切除するということでしょうか。

岡西その通りです。私はてんかんの患者さんの診察と、てんかんの病巣が脳のどこにあるかを詳細に調べる解析をしています。そして、切除部位を決定して外科の先生に執刀してもらいます。この解析はものすごく複雑で、現在存在する医療の中でもトップ1、2位の複雑さだと思います。

平野岡西先生が診断と解析を行い、どこを切除するかを決める。実際に執刀するのは別の先生。分業制なのですね。

岡西ええ。解析は非常に複雑なため、北米では内科でも外科でもない解析だけを行う医師が置かれている施設も多いです。
現在私が所属しているてんかんセンターには4名の医師が専属で所属していますが、2名が外科医(てんかん外科医)、私ともう1人は小児神経科医つまり内科系の医師です。
小児に対しては、外科適応(手術をするかどうか)を決め、検査をして具体的な手術の範囲を決めるための解析するのは小児神経科医で、執刀する外科医とは分業しています。
分業というとお互いが専門ごとにまとまってしまって意思疎通のしにくい縦割り組織になってしまいそうですが、我々は声をかければすぐそこにいるくらいの近い距離で仕事をしていて、お互いが異なる専門知識を持っている事をよく知った上で尊重しあっています。また女性の脳波技師さんがとても優秀で、この方とはいつも脳波検査の解釈について意見を言い合っています。チームには緩やかに年齢の上下関係はありますが、チーム内の雰囲気は良くてお互いに気兼ねなく話していますよ。ですから、意見交換や情報共有が非常にスムーズにできていますね。この関係は我々の最大の武器とも言えます。

平野おっしゃるとおり、日本は専門ごとにまとまってしまい、結果的に重複した仕事をしていたり、縦割り組織になって意思疎通がうまくいかなかったりすることがありますが。先生の組織のように、小児てんかんの外科治療というひとつの目標に対して、一箇所に異なる専門家がフラットな関係で集まっているのは、日本的ではないですね。

岡西そうですね、日本の組織はみんなが同じ仕事をしてしまうため、効率化を妨げている部分があると思います。これは良い面もあるのですが、例えば雑用や専門外のことでも、みんなで同じようにやらなくてはいけないので、自分の専門にコミットできる時間が意外と短かったりします。そうなるとあまり難しい事が出来なくなってしまいます。
その点、うちはかなり欧米的な組織だと思いますよ。ひとりひとりの役割分担がしっかり出来ているし、各自が自分の専門領域に打ち込んでいながらお互いを尊重し合っています。人間関係もいいですしね。

平野なるほど、そのあたりの組織論をお話するのも面白そうですが・・。そうすると大きく脱線してしまいそうですね。
ところで、てんかんを手術で治療するというのは初めて聞きましたが、てんかん治療は外科的に行うのが主流なのですか。

岡西いえ、日本でも海外でもあくまで最初は内科治療です。内科治療の効果が充分でない患者さんには外科適応となることがあります。北米ではこの内科から外科への移行がとてもタイミング良くスムーズに行われておりますが、日本ではてんかん外科が欧米に比べて20年遅れており、まだまだ外科治療に対する感覚に乏しいため、本来は外科適応の患者さんもずっと内科治療をし続けている方が沢山居るんです。

平野なるほど

岡西内科的な治療が効果を発揮しない、つまり薬だけでは改善しないてんかんを難治性てんかんと言いますが、適応の患者さんをちゃんと検査して外科的に治療することで完全に治ったり、かなり症状が緩和されます。
難治性のてんかんは、ほかの障害、例えば重度の発達障害などを併発していることが多いのですが、発作の回数が減ると集中力が高まり、発達障害がある程度改善されることもあります。
もちろん、治療で社会復帰する人も沢山居ますし、もし知的障害が強い方でも、介護に当たっている方の負担が激減します。本人もできることが増えるので嬉しいと思います。

平野なるほど、岡西先生たちがそこに切り込んでいく、といことですね。これからの仕事の展望といいますか、今後、てんかんセンターはどのように発展されていくのでしょうか。

岡西そうですね、聖隷浜松病院におけるてんかんセンターはこの数年でめざましく発展してきたのですが、小児てんかんについては今でも充分とは言えずこれからです。実は、来年にはセンター付属の病棟ができます。
病棟専属の看護師や検査技師のような専門性の高いコメディカルの方も配属されますから、さらに仕事の幅が広がります。
また、静岡県内の病院と連携して、患者情報の共有や、症状のある患者を私たちのところに紹介してもらえるように他病院との連携を深めています。

平野病棟ですか。すごい。新規事業が大きく花開く瞬間ですね。聞いている私がワクワクしてきます。専属のスタッフを抱える大きな組織に変わるのですね。
聖隷浜松病院でも期待のプロジェクトということですね。

岡西そうですね、期待に答えられるように頑張ります。日本一のてんかんセンターにすることが私たちの目標です。

今回は、聖隷浜松病院 小児神経科医長 岡西 徹 先生に、先生のお仕事の内容と今後の展望について伺いました。

私はドラッカーの本が好きなのですが、組織ありきではなく、目的に対して専門家が集まって組織が作られており、そのメンバーは全員がプロフェッショナルで、それぞれの持つ異なる領域の専門性を尊重し合っているというのは、ドラッカーの提唱する知識労働者の組織が具体化されたものように思えました。

さて、今回は岡西先生のお仕事について伺いましたが、次回は岡西先生のキャリアについてお話を伺います。

てんかん:
脳の一部が異常な活動をして、突然ひきつけを起こす病気。人間の約100人に1人がてんかんであり実はとても多い。小児と老人に新規発症が多いが、いつでも誰にでも起こりえる。

岡西徹

岡西徹

聖隷浜松病院 小児神経科主任医長
聖隷浜松病院 教育タスクフォース

【認定医・専門医資格等】
日本小児科学会専門医
日本小児神経学会専門医
日本小児神経学会評議員
日本小児神経学会広報委員
日本てんかん学会専門医
日本てんかん学会専門医指導医
アメリカてんかん学会会員
日本結節性硬化症学会会員
医学博士
身体障害者福祉法第15条指定医
日本臨床神経生理学会認定医

【略歴】
2001年 名古屋市立大学病院
2002年 聖隷三方原病院
2006年 鳥取大学医学部附属病院
2008年 名古屋市立大学病院
2009年 聖隷浜松病院
2011年 The Hospital for Sick Children(Toronto) 神経生理部門 リサーチフェロー
2013年 聖隷浜松病院
Tohru Okanishi, MD, PhD
Division of Child Neurology
Seire-Hamamatsu General Hospital,
2-12-12 Sumiyoshi, naka-ku,
Hamamatsu, Shizuoka, Japan 430-8558,

 

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