化学連載 第44回:固体の溶解度(水和水なし)
固体を水に入れると、いくらか溶けて溶解速度と固体の析出速度が釣り合った固液平衡の状態となる。この状態になると見かけ上、溶解も固体の析出も起こらなくなった固液平衡と呼ばれる状態になります。
固液平衡の状態に達すると、それ以上濃度を高めることができません。そこで、この水溶液を飽和水溶液、この溶液の濃度を飽和濃度と言います。
固体の溶解は吸熱反応である。(固体よりも液体の持っているエネルギーが大きい)から、温度が高いほど溶解側へ平衡が移動する。そのため、溶解度は温度が高いほど大きくなります。

左図のように、固体の溶解度は温度が高くなるにつれて大きくなっていきますが、 NaCl のように温度によってほとんど溶解度が変化しないような固体と、 KNO3 のように温度によって溶解度が大きく変化する物質があります。
再結晶によって精製しやすい物質は、 KNO3 のように温度によって大きく溶解度が変化するような物質です。
温度が高い飽和水溶液を冷却すると、多量の結晶を得ることができるのです。
溶解度の問題では、析出した固体の量や、ある水溶液に更に溶かすことができる溶質の量などが問われます。
問題を解くにあたっては、与えられたグラフや溶解度の値から、下表のような溶媒を 100g とする表を書きます。
次の表を使うと、機械的に問題を解くことができます。
【固体の溶解度解き方まとめ】
①:まず、与えられた溶解度の値やグラフから、溶解度の表を作る。
②:次に、求める値を x とおいて、必要があれば他にも文字を置き、同様の表を作る。
③:①と②の表を見比べて比の式をつくり、 x についてそれを解けばよい。
具体的に問題を解いてみましょう。
問題: T1℃ の KNO3 飽和水溶液 200g に含まれる KNO3 は何 g か。
解答:まず溶解度の表を描きます。
求める値を x とすると、問題で与えられた数字から、次のような表が描ける。
この二つの表を見比べて、比の式を作ります。
溶質: 溶液=A:100+A=x:200 これを解いて、
このように、最初に溶媒を100とする表を描いておくと、非常に整理しやすくなるのです。常にその表の中の比が成立しているからなんですね。
問題: T2℃ の KNO3 飽和水溶液 200g を T1K まで静かに冷却すると、何 g の KNO3 が析出するか
解答:まず溶解度の表を描きます。
次に、析出する KNO3 の質量を xg とし、もともと溶けていた KNO3 を yg とします。
そうすると、溶媒の量は一定で変わらないことが分かりますね。そうすると yg との値を求め無くてもよいということが分かります。溶媒量が同じであれば、 T1 の溶液量: T2 の 溶液量=100+A:100+B が成立します。
従って、 200-x:200=100+A:100+B
(200-xx)(100+B)=200(100+A)
20000+200B-xx(100+B)=20000+200A よって、
問題: T2℃ の KNO3 飽和水溶液 200g を濃縮して 30g の水を蒸発させた。何 g の KNO3 が析出するか
解答:まず溶解度の表を描きます。
次に、析出する KNO3 の質量を x g とし、もともと溶けていた KNO3 を y g とします。
文字が二つありますが、赤い四角に着目して、次の連立方程式を作り、これを解きます。
1)の赤い四角に着目して、 B:100+B=y-x:170-x ・・・ ①
2)の赤い四角に着目して、 B:100+B=y:200 ・・・ ②
②より、・・・ ②'
①より(100+B)(xy-x)=B(170-xx)
100xx=(100+B)xy-170B よって、
ここへ②-を代入すると、
問題:の KNO3 を T2K で水に溶かして 200g にした。この溶液にはあと何 g の KNO3 を溶解することがで きるか。
解答:まず溶解度の表を描きます。
次に、求める値を x g とする。
比の式を作って、 よって
よって、

平野 晃康
株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師
昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。