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化学講座 第41回:Z-P曲線とファンデルワールスの式

実在気体と理想気体の差を表す指標に、圧縮率因子というのがあります。
で表される値なのですが、よく見てみると、理想気体の状態方程式の物質量と同じ形をしていますね。
ですから、理想気体では Z の値は圧力や温度を変えても常に一定の値を取ります。

一方、実在気体では、気体分子の体積や分子間に働く分子間力の影響で Z の値は一定値からずれてしまいます。
そして、どれくらい値がずれているかを見れば、その実在気体が理想気体からどれくらいずれているかということが分かるのです。

実在気体が理想気体と異なるのは、分子間力が働くこと、分子の体積が無視できない事でした。
この違いのうち、分子間力は気体の体積を小さくするという影響を及ぼします。同じ温度、同じ圧力の時、分子間力が働く実在気体では、気体同士がひきつけあうため、気体全体の体積が理想気体より小さくなってしまうのです。
次に、気体分子の体積は、気体の体積を大きくするという影響を及ぼします。同じ温度、同じ圧力のとき、分子の大きさの分だけ、気体全体の体積は理想気体より実在気体の方が大きくなってしまうのです。

正反対の影響を及ぼすこの二つの要因のどちらが強く働くかは、気体の圧力や体積、そして温度などによって決まります。まず、同じ温度での気体の圧力(体積)に着目してみましょう。

 

低圧(体積が大きい)場合、右図のようなイメージをしてもらえばわかると思いますが、気体の大きさはそれほど問題にはなりません。
例えば、ものすごく広いスペース、例えば校庭に10人の人が居たとしても、お互いの体積(一人一人が占めるスペース)は気になりませんよね。ですから、この場合は、気体分子の大きさよりも分子間に働く分子間力の影響の方が大きくなるのです。
実在気体は理想気体より体積が小さくなります。

では、高圧(体積が小さい)場合はどうでしょう。
今度はお互いの体積の影響が大きくなります。
あなたの部屋に10人の人間がもしいたら、お互いの体積が気になりますよね。10人入っても大丈夫という大きな部屋に住んでいる人もいるかもしれませんが、普通は無理ですね。
ぎゅうぎゅう詰めになってしまいます。
実在気体は理想気体より体積が大きくなります。

 

では、圧力に対する実在気体の Z の値について考えてみましょう。
一定温度で実在気体の Z の値を、横軸に P を取ってグラフを描くと、下図のようになります。
比較的圧力の小さい場所では理想気体より小さく、圧力の大きいところでは理想気体より大きくなっていますね。

それでは、これが何を意味しているのか考えてみましょう。今、T は一定ですがVとPとZの3つの変数が存在しています。3 変数では良く分かりませんので、Pを固定して考えることにしましょう。

まず、低圧に着目します。
そうすると、Zの値は理想気体より実在気体の方が小さくなっていますね。
これは何を表しているのでしょうか。
ですから、TとPを固定すると、Zの値はVのみによって決まります。従って、Zが小さいということは体積が小さいことを表しています。

高圧のでは逆に、Zの値は実在気体の方が大きくなっていますね。
つまり、高圧では実在気体の方が体積が大きいことが分かります。

 

これらの結果は先ほど考察した結果と一致していますね。

次に、気体の種類による影響を考えましょう。実在気体と理想気体の差は、気体の体積と分子間力によるものなので、これらが大きいものほど理想気体から大きくずれます。

では、それはどのような気体かというと、分子量が大きくて極性のある気体です。

 

分子間力は分子量が大きくて極性の大きなものほど大きいですし、体積は分子量の大きいものほど大きくなるのは当然ですよね。実際、(分子量17、極性あり)、(分子量16。極性なし)、(分子量2、極性なし)のZ-P曲線は上図のようになります。が最も大きくずれていて、が最もずれていないことがわかりますね。

 

 次に、温度に対する変化を考えてみましょう。同じ圧力で温度が大きいとどうなるでしょうか。気体の状態方程式に従うのであれば、ですから、温度が高いほどVは大きくなります。体積が大きいほど気体分子そのものの大きさの影響は小さくなりますから、温度が高いほど理想気体に近づきます。

また、温度が高くなって分子の運動が激しくなると、分子間力による影響も小さくなります。感覚的ですが、ものすごく速く動いている物体に少々の力を加えてもその運動はなかなか変化しないけれど、ゆっくり動いている物体には少し力を加えるだけで運動を変化させられる。というくらいで理解しておけば大丈夫です。

温度を変えてZ-P曲線を描くと下図のようになります。温度が高くなるほど理想気体に近づくことがわかりますね。

以上の事から、理想気体に近い実在気体というのは、①圧力が低く(体積が大きく)②温度が高く③分子量が小さくて極性がない気体です。

 

最後に、理想気体の状態方程式を理想気体に応用する方法を考えてみます。これは、一応高校の範囲外ですが、大学受験には出題されるため、知っていた方がいいでしょう。

まず、理想気体の状態方程式はPV=nRTで表されるのでした。ここで、n、Rは定数。Tは実在気体でも理想気体でも変わりませんから、右辺には何も補正をする必要はなさそうです。

1)Pに対する補正

Pに対する補正を考えましょう。実在気体は分子間に分子間力が働いています。そのため、壁に衝突しようとするとき、周りの分子から分子間力によるブレーキを掛けられて、その分、圧力は理想気体より小さくなります。この大きさは(aは気体の種類による定数)と表せます。

従って、実在気体の圧力がだとすると、これが理想気体だった場合の圧力はと表すことができます。
(実在気体の方が圧力が小さいので、その分を加えればいいのです。)

2)Vに対する補正

Vに対する補正を考えましょう。実在気体は分子の体積の分だけ体積が大きくなっています。この大きさはb(bは気体の種類による定数)と表すことができます。

従って、実在気体の体積をだとすると、これが理想気体だった場合の体積は、と表すことができます。
(実在気体の方が体積が大きいので、その分を引けばよいのです。)

この補正を行うと、理想気体の状態方程式は、次のように書くことができます。

この式をファンデルワールスの式と言います。

 

平野 晃康

平野 晃康

株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師

昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。

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