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第16回:酸と塩基(3)

1. 塩の定義

塩とは、イオン性物質のうち酸化物や水酸化物を除く物質の事です。中和反応で、水以外に生じる物質です。

2. 塩の分類

塩は、その構成により、次の3種類に分類されます。

(1) 正塩
酸のH+や塩基のOH-を含まない塩NaCl、CuSO4、Na2CO3、NH4Clなど。
(2) 酸性塩
酸のH+を含む塩、NaHCO3やNaHSO4など。
(3) 塩基性塩
塩基のOH-を含む塩、CuCl(OH)やMgCl(OH)など。

ただ、これらの分類は、塩の形式上の分類にすぎず、水に溶かしたときの液性を示すものではありませんから、注意してください。塩の水溶液の液性は、次の3のように、塩の加水分解によって決まります。

3. 塩の加水分解と塩の水溶液の液性

前回、塩の水溶液の液性はその塩を構成している酸・塩基の強さで決まるというお話をしましたね。
ここからは、塩の水溶液がなぜ酸性や塩基性を示すのかについて説明しようと思います。

まずは、弱酸・弱塩基の電離について考えてみます。弱酸・弱塩基は電離度が小さく、水中でほとんど電離しません。例えば、CH3COOHなどは100個の分子に1個程度、あるいはそれ以下の割合でしか電離していません。

そういうと、100個のCH3COOHの中で選ばれた1個だけが電離して、他の99個は電離しないように思うかもしれませんが、実はそうではなく、電離平衡といって、電離とその逆反応の速度が釣り合う条件が99個のCH3COOHと1組のCH3COO-とH+という状態なのです。

ちょっとわかりにくいですよね。順を追って説明します。

CH3COO-を水に溶かす事を考えてみましょう。そうすると、いくつかのCH3COOHが電離してCH3COO-とH+になります。そして、電離して生じたCH3COO-とH+はしばらくすると再度結びついてCH3COOHに戻ります。

CH3COOHを水に溶かすと、一部が電離する。

電離する速度はCH3COOHの濃度に、CH3COOHに戻る速度はCH3COO-とH+の濃度に比例しますから、CH3COOHが電離してCH3COO-とH+が増加するほどCH3COO-とH+が結びついてCH3COOHになる反応の速度が大きくなり、CH3COOHが電離する速度はCH3COOHの濃度が減少するため遅くなります。

すると、いつか電離する速度と、元に戻る速度が同じになります。そうすると、電離も、元に戻る反応も両方とも起こっているのに、見かけ上、何も起こってないように見えますよね。

酢酸のような弱酸は、電離平衡になった時に電離している分子の割合が極端に小さい。

この状態を電離平衡といい、弱酸や弱塩基の電離度とは、この電離平衡になるときに弱酸や弱塩基がどれくらいの割合で電離しているのかを表す値なのです。

CH3COOHの電離度は非常に小さいですね。ということは、CH3COOHは電離してCH3COO-とH+に電離してもすぐにくっついてCH3COOHに戻ってしまうわけです。つまり、CH3COO-はH+と非常に結びつきやすいという事ですね。

CH3COOHは電離度が小さいが、これは、CH3COO-がH+と非常に結びつきやすいことを意味している。

では、水にCH3COO-を加えたらどうなるでしょうか。CH3COO-はH+と結びつきやすいので、水が電離して生じたH+と結びついてCH3COOHになってしまいます。

CH3COOH

すると、[H+]が減少しますから、水のイオン積[H+][OH-]=1.0×10-14(mol/L)2が成立しなくなってしまいます。そこで、H2Oが電離してH+とOH-が新しく生じます。するとCH3COO-がH+と結びついて、またイオン積が成立しなくなり、H2Oが電離してH+とOH-が新しく生じるという反応が繰り返されます。

CH3COOH

水が電離して生じたH+がCH3COO-と結びつき、CH3COOHとなる。
すると、水の電離平衡が成り立たなくなり、新たに水が電離する。

そして、しばらくして電離平衡が成立した頃には、かなりの量のOH-が余っていることになります。つまり、CH3COO-が存在すると、水溶液は塩基性になるわけです。

CH3COOH

水の電離平衡と、酢酸の電離平衡が共に成立するときには、OH-がH+よりも多い状態となっている
⇒ 水溶液は塩基性

逆の理由で、NH4+が存在すると水溶液は酸性になります。下式のような反応が進むわけです。

NH4+ → NH3 + H+

一方、HClやNaOHはどうでしょうか。これらは強酸、強塩基ですから、電離度1、つまり水溶液中で完全に電離して元に戻らないのです。いや、厳密には、電離平衡のとき、わずかにHClやNaOHが存在するのですが、ほとんど無視できるような量しか存在していないんですよね。

ですから、水中Cl-やNa+を加えても、ほとんど何も起こりません。ほんの少しOH-やH+が増えますが、ほとんど気にならない程度でしかないんですよね。
という事で・・・。前回の最後に説明した通り塩の液性については次の3つの事が言えます。

(1) 強酸と強塩基の塩は中性

例)NaCl

陽イオン:Na+
強塩基のNaOHの陽イオンなので、H2Oとほとんど反応しない。
陰イオン:Cl-
強酸のHClの陰イオンなので、H2Oとほとんど反応しない。

⇒強酸と強塩基の塩のNaClはH2Oと反応しない。

(2) 強酸と弱塩基の塩は酸性

例)CuSO4

陽イオン:Cu2+
弱塩基のCu(OH)2 の陽イオンなのでCu2++ 2H2O→Cu(OH)2+2H+の反応によりH+を放出する。
陰イオン:Cl-
強酸のHClの陰イオンなので、H2Oとほとんど反応しない。

強酸と弱塩基の塩のCuSO4はH2Oと次のように反応する。

CuSO4+ 2H2O→Cu(OH)2+2HCl : HClにより酸性・・・(a)

(3) 弱酸と強塩基の塩は塩基性

例)CH3COONa

陽イオン:Na+
強塩基のNaOHの陽イオンなので、H2Oとほとんど反応しない。
陰イオン:CH3COO-
弱酸のCH3COOHの陰イオンなので、CH3COO-+H2O → CH3COOH + OH-の反応により、H2Oと反応してOH-を放出する。

弱酸と強塩基の塩のCH3COONaはH2Oと次のように反応する。

CH3COONa+H2O → CH3COOH+NaOH : NaOHにより塩基性・・・(b)

(a)や(b)のような塩と水の反応を、塩の加水分解と言います。この加水分解によって塩の水溶液の液性が決まるわけです。

ここまでよろしいですか?今回は結果だけではなく、ちゃんと理由まで理解することができましたね。

4. 紛らわしい塩の液性

最後に、紛らわしい塩について説明しておきますね。これらは入試問題で問われますから、注意してくださいね。

(1) Na2CO3(やや強い塩基性)

この物質は、水中でNa+とCO32-に電離します。
Na+はNaOHという強い塩基から生じる陽イオンですから、水とはほとんど反応しませんね。
一方、CO32-はH2CO3という弱い二価の酸から生じる陰イオンですから、水と反応しますね。しかも、二価の弱酸の場合、一段階目の電離より、二段階目の電離の方がものすごく起こりにくいんです。つまり、H2CO3は弱い酸ですが、HCO3-はそれを上回る、ものすごく弱い酸なんですよ。
ですから、HCO3-が電離して生じるCO32-はH+とものすごく結びつきやすくて、H2Oが電離して生じるH+とどんどんくっついていき、電離平衡に達するころにはOH-が相当余っている状態になるわけです。
したがって、Na2CO3の水溶液はやや強い塩基性を示すのです。

(2) NaHCO3(よわい塩基性)

この物質は水中でNa+とHCO3-に電離します。HCO3-は電離してH+になる働きもしますが、むしろH+を受け取ってH2CO3になる働きの方が強く、水中で塩基性になります。しかし、(1)で説明したようにH2CO3はHCO3-より電離しやすいので、HCO3-は、CO32-よりH+を受け取る働きが弱く、それだけ電離平衡になった時の、OH-イオンの濃度は小さくなります。従って、NaHCO3水溶液の塩基性はNa2CO3水溶液より弱くなります。
また、この物質は水にそれほど溶けない物質であることもついでに覚えておきましょう。

(3) NaHSO4(強い酸性)

NaHCO3と似たような形をしているので、塩基性か?と思ってしまいますが、この物質は強い酸性を示します。なぜなら、HSO4-は2価の強酸のH2SO4が半分電離した状態ですので、まだH+を1つ放出することができるからなんですね。まだ、強酸として働くことができるわけです。

(4) Na2SO4(中性)

Na+もSO42-もともに強塩基・強酸の陽イオン、陰イオンですから、H2Oとはほとんど反応しません。したがって、Na2SO4の水溶液は中性です。

平野 晃康

平野 晃康

株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師

昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。

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