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化学連載 第42回:水銀柱の問題

水をコップに入れて机の上に置いてしばらく観察してみると、水面は動いたりせず、そのままですね。当然、ずっと見続けていれば乾燥して液体がなくなってしまうかもしれませんが、室温、大気圧の条件で数分見ていた程度では水面は動きません。いきなり盛り上がったり、一部がへこんだりすることはないのです。さて、何を言い出すのか、と思われたかもしれませんね。もう少し外堀を埋めてから本題に入りましょう。

物体の運動を扱う力学には、運動の法則というものがあります。その法則によれば、物体は現在している運動をずっと続けようとします。この運動を変化させるには物体に力を加えなくてはいけませんが、力が加わっていなかったり、あるいは力が釣り合っているような場合には、物体の運動は変化せず、ずっと同じ運動を続けます。

静止も運動の一種ですから、このように水面が動かないというのは、水面に力が加わっていないか、そうでなければ力が釣り合っているという事を表しています。空気は圧力(大気圧)があって、その圧力で水面が押し込まれているのです。ですから、水面では下から押し上げようとする圧力(水が大気圧を押し返そうとする圧力)が大気圧と釣り合っているのです。

先に進む前に、気体や液体の圧力についてもう少し考えておきます。十分な量がない場合、実は、気体や液体の圧力はどこでも同じになります。例えば、ピストンの中の気体や、ビーカーや水槽の中の水などは、どこも同じ圧力になっていると考えることができます。(大気圧、水圧の正体については補足で。水より重い比重の液体では内部の圧力は一定ではありません。)

水ではなくて水銀ではどうでしょう。水銀も水と同じように下から大気圧と同じ圧力で押し返しています。
それでは、ここで、表面の位置部分から空気を取り去ったらどうなるでしょうか。当然、その部分の大気圧が0になってしまいますが、水銀の表面を押し上げようとする圧力はどこでも同じですから、その部分だけ押し上げる力が強くなって、水銀柱は上へと持ち上がります。

この後いくらか持ち上がったあと、外部の水銀面との高さの差が一定値になったところで水銀の上昇が止まります。
これは、持ち上がった水銀柱が作る圧力と、大気圧が釣り合うためです。
この水銀柱の高さは大気圧が 1気圧=1.013×105Pa の時 760mm であることが知られています。

この水銀柱の高さを計算で求めてみましょう。

  • 水銀の密度    : ρ(g/cm3)
  • 水銀柱の高さ   : h(cm)
  • 大気圧      : P0(Pa)
  • 水銀柱の作る圧力 : P(Pa)
  • 管の断面積    : S(cm2)
  • 重力加速度    : g(m/s2)

とします。物理の法則として、物体が受ける重力は、 質量(kg)×重力加速度(m/s2) で計算される事が知られています。

まず、 h(cm) の水銀柱の 質量(kg) を求めましょう。

水銀柱の体積は Sh(cm3)
水銀の密度が ρ(g/cm3)なので
水銀柱の質量は
従って、水銀柱に加わる重力は
断面積 なので、この水銀柱が作る圧力は と表せます。

従って、 P0=P=1000ρhg 、これを解いて、水銀柱の高さは、 と計算することができます。

この式を見るとわかるように、水銀柱が重力によって作り出す圧力は、水銀柱の断面積Sによらない値であることがわかります。また、この式は水銀柱だけではなく、他の液体でも成立します。

密度が ρ'(g/L) の液体が作る液柱の高さを h'(cm) とすると、 P0=1000ρ'h'g=1000ρhg が成立します。

よって、 ρ'h'=ρh が成立しますから、液中の高さと密度は反比例の関係になります。

具体的な数値で考えてみましょう。水銀の密度 13.6(g/cm3) 、水の密度 1.0(g/cm3) 、として、 hHg(cm) の作る水銀柱の圧力が、 hH2O(cm) の水柱の作る圧力に等しいとします。

すると、 13.6hHg=1.0hH2O 、すなわち hH2O:hHg=13.6:1.0 が成立します。

この式から、 1cm の水銀柱の作る 圧力=13.6 cm の水柱の作る圧力であることがわかります。

1cm の水銀柱が 13.6cm の水柱と同じ圧力を作るのは、水銀の方が水より密度が 13.6倍 大きいことを考えれば納得できますよね。

760mm の水銀柱が作られている状態で、そこに飽和蒸気圧 100mmHg の液体を注入します。そうすると、水銀の比重が非常に大きい (13.6g/cm3) ため、液体は水銀の中を上昇して真空部分に液だまりが生じます。

そのまましばらく放置すると、液体が蒸発して真空部分は圧力が 100mmHg の飽和蒸気になります。したがって、水銀柱の高さは 760-100=660mm となるのです。

760mm の水銀柱が作られている状態で、ガラス管を上から押し込んで水銀面から出ている高さを 710mm にしたとき、指が管を押す力は 760-710=50mmHg になります。この状態で、先ほどと同じように液体を注入すると、液体の一部が蒸発して圧力 100mmHg の蒸気になります。

そのため、液面はさらに下がって、水銀柱の高さは 760-100=660mm となります。したがって水銀面はさっきより 710-660=50mm 低下します。

今度は液体のを上から押した場合を考えてみよう。この場合は液体は蒸気にならない。その理由は、水銀柱がその状態より下に下がるためには 110mmHg 以上の圧力が必要なためです。これはこの気体の飽和蒸気圧を越えてしまっているため、液体を注入しても気体は生じない。

【補足】大気圧と水圧

大気圧とは、大気の重みが作り出す圧力です。目に見えず、普段は重みを意識しない空気も、地表から宇宙空間までの高さになると相当の質量になります。

その空気の柱が地表面に作り出す圧力を大気圧というのです。高いところに行くと当然、空気の柱の高さが低くなるので、その分、圧力が小さくなります。

【大気圧】

【水圧】

平野 晃康

平野 晃康

株式会社CMP代表取締役
私立大学医学部に入ろう.COM管理人
大学受験アナリスト・予備校講師

昭和53年生まれ、予備校講師歴13年、大学院生の頃から予備校講師として化学・数学を主体に教鞭を取る。名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、株式会社CMPを設立、医学部受験情報を配信するメディアサイト私立大学医学部に入ろう.COMを立ち上げる傍ら、朝日新聞社・大学通信・ルックデータ出版などのコラム寄稿・取材などを行う。

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