医学部の面接試験にどう臨むか

私立大学医学部の入学試験では、ほとんどの大学で面接試験が課されます。グループ面接、個人面接、グループ討論など、様々な形の面接が行われますが、この面接試験の対策方法について、元私立大学医学部事務部長で医学部入試面接にも関わっておられた渡辺弥千雄 富士学院参与にお話を伺いました。

平野:

医療系大学データブック2017に、医学部の面接はこういう視点で行われるという趣旨で執筆いただき、ありがとうございました。医学部受験の面接がどのような意図をもって行われているかがよく分かり、受験生にとって大変参考になったと思います。今回は、受験生が具体的にどんなスタンスで面接に臨めばよいのかをお聞きしたいと思います。

渡辺:

まず、医師志望の理由ですが、ほとんどの医学部で聞かれています。医師になりたくて医学部を目指しているのですが、その理由はそれぞれ違いますから、面接側は是非聞いてみたいはずですね。当然ですが、これはしっかり思いを伝えてほしいです。本気度が感じられないと、面接側は「これといった気持がなくて受験しようとしている。医師になりたいという強い目的がないのでは医学部の厳しい6年間を過ごしていけるのかな」という気持になるでしょうから。

平野:

そうでしょうね。「親に勧められたから」とか先生や友人に「君は勉強できるから医学部に進んだらどうかと言われたから」という生徒が実際にいると聞いたことがあります。渡辺参与は医療系大学データブック2017の中で「面接試験に正解はない」とおっしゃっていましたが、それは不正解もないということだと思います。しかし、これはどうでしょう。「不正解」になるのではないでしょうか。

渡辺弥千雄渡辺:

「不正解」とは言い切れないと思います。一応そういう理由もありかなと(笑)。ただ、本当にそれだけが理由だったとしたら、親とか友人とか、他人の言葉に乗っかっているだけ、つまり周りに左右されているだけなので主体性が感じられませんね。だから、面接者でなくても厳しい6年間を過ごせるのだろうか、医師としての適性はどうなのかと疑問に思いますね。その回答だけで不合格になるかどうかは分かりませんが。これが、もし親に勧められたのが医師としての成功や失敗などの経験談や医療への思いなどによるもので、それを聞かされて熱い思いがたぎったという話であれば、それは自分なりの堂々とした理由だと思います。

平野:

なるほど、つまり、自発的であれ、他発的であれ、その人自身が納得して行動できるであろう理由に落とし込めているというのが大切ということですね。では、面接の全般にわたって、考えておくべきことはあるでしょうか。

渡辺:

基本的には3点あります。一つは、面接は対話であるということです。面接者と会話のキャッチボールができることが、まず一番ですね。常に自分の思うことや考えを相手にしっかり伝えようという意識を持つことです。発声が大事ですし、話す言葉も明確にしてほしいですね。流暢な返答が高い評価が得られるわけではなく、たどたどしくても全く構わないので、一生懸命思いを伝えようとする姿勢が評価は高くなると思います。これは練習で良くなります。私が推奨する方法の一つですが、自分で録画・録音してそれを見聴きするのは大変効果的です。これをやって「何を言っているのか分からなかった。あまり声が聞き取れなかった」と実感して、ガラッと変わった生徒はたくさんいます。

二つ目は、答えに「正解」はないということです。前回触れましたが、「質問に対して何と答えれば評価が高くなるのか」という“正解”を模索しているものが多いという感じを受けます。考えや思いは人それぞれなのですから。面接で答える内容には、正しい答えというものはありません。ある意味、思ったことをどのようにしっかり伝えたかということに尽きるかもしれません。少し別の観点ですが、面接指導のとき「人の命を救いたい」とか「地域医療に貢献する」とか、高邁な精神の話が出てくることがあります。こういう、さも立派なことを語ると評価が高くなると考えているんでしょうね。でも、面接者は18、19歳の人間がどれほど医療の実態を分かってそんなことを言うのかって思うでしょうから、評価が上がるとは考えられません。

三つ目は回答を文章化して覚えるのはタブーということです。よく、仮想の質問を立てて、その答えを文章化して覚えてくる人がありますが、面接側に立つと、「答えていないな。答えの文章を読んでいるな」って直ぐ分かります。発声が平坦ですし、本当によく分かるんですよ(笑)。もちろん説得力がありませんし、自信がなさそうにも見えます。何より、仮に内容に嘘がなくても面接側は作為性を感じますから、逆に著しく評価を落とすとにもなりかねません。

ほかにも細かい点はいろいろありますが、面接指導では逐一説明して理解してもらっています。

平野:

よく、大学が圧迫面接をする、厳しい言葉をかけられた、という話を聞いて、委縮してしまう人がいます。それ以外にも、先輩の話を聞きかじって変に構えてしまう人がいるようです。

渡辺:

確かに、面接を受けた経験者に「あの大学は圧迫面接をする」と聞いて心配になる人がいます。まれにそういうケースもあるでしょうけど、中身を知らないのに言葉面だけ捉えて「立派な答えだ」と思って話した結果、そうなったケースが多いのではないかと思います。例えば「地域医療に貢献したい」と答えると「地域医療とは?」という質問が、「先進医療が魅力的」と答えると「先進医療とは?」という質問が来る。それに苦し紛れに答えるたびに関連質問が続いて答えに窮し、「圧迫面接」をされているという思いが強くなる。つまり、小手先の答えで乗り切ろうとした結果だと思います。

平野:

ありがとうございました。最後に、受験生に望む心構えのようなものはあるでしょうか。

渡辺:

何度も面接指導を受けた、練習した、その経験をバックにして面接に行くわけですから、難しいことだとは思いますが、当日は「自分を信じて」臨んでほしいですね。そして「面接に来いと言われたから受けに行く」のではなく、「面接の機会があるから思いを伝えに行く」という気構えを持ってほしいと思います。